本年度は目的Iに関して、24S-OHC処理により液-液相分離により形成される膜をもたない構造体であるストレス顆粒の形成が誘導されることを見出した。さらにストレス顆粒形成を促すシグナル分子であるeIF2αに着目し、eIF2αキナーゼPERKの阻害剤であるGSK2606414の効果を検証したところ、ストレス顆粒形成を抑制した。昨年度GCN2のリン酸化も亢進していること見出していることから、PERK経路とGCN2経路の協調的な活性化によるeIF2αのリン酸化、すなわち統合的ストレス応答(ISR)に着目し、ISR阻害剤であるISRIBの効果を検証したところ、24S-OHC誘導性のタンパク質翻訳抑制が顕著に緩和し、ストレス顆粒形成も完全に抑制された。また細胞死も有意に抑制されたことから、ACAT1を介した24S-OHCのエステル化によるISR経路の亢進が細胞死を引き起こす重要な役割を果たすことが示された。 目的II についてヒトケラチノサイトであるHaCaT細胞における25-OHC誘導性細胞死では、ACAT阻害剤は細胞死抑制効果を示さなかった。またカスパーゼ3の活性化が認められ、ZVADにより有意に細胞死が抑制されたことから、アポトーシスが誘導されたと考えられた。これまでの結果と合わせ、同じ25-OHCでも細胞の種類によって異なる細胞死誘導機構により異なる細胞死形態で細胞死が引き起こされることが示された。 目的IIIについて、APP切断酵素であるβ-セクレターゼの基質であるSt6Gal1を安定発現させたCHO細胞を用いて、K-604処理によるβ切断に対する影響を検討したところ、β-セクレターゼ活性には直接影響を与えていないことが確認された。
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