研究課題/領域番号 |
19K07094
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研究機関 | 大阪薬科大学 |
研究代表者 |
福永 理己郎 大阪薬科大学, 薬学部, 教授 (40189965)
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研究分担者 |
藤井 俊裕 大阪薬科大学, 薬学部, 助教 (30580104)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 翻訳制御 / Mnk / シグナル伝達 / 細胞増殖 / プロテインキナーゼ / MAPキナーゼ |
研究実績の概要 |
研究計画1~2に基づき、ヒトHeLa細胞を用いてCRISPR/Cas9システムによるMnk1およびMnk2の遺伝子ノックアウト(以下KO)、さらにJNKやp38MAPKの遺伝子KOを行なった後、Mnk-eIF4E翻訳調節系の制御に関わるシグナル伝達系の解析を行い、以下の結果を得た。 (1) p38αおよびp38βの遺伝子KOを行い、p38α-KO、p38β-KO、およびp38α/β-ダブルKO(DKO)の各細胞を作製した。amisomycinのストレス刺激によるMnk-eIF4Eシグナル経路の活性化機構を解析した結果、Mnk1の活性化には主にp38αが関与していることが判明した。一方、JNK1/2の各種KO細胞を作成してJNK阻害剤CC-401によるeIF4Eのリン酸化阻害機構の解析を行った結果、本阻害剤のeIF4Eリン酸化阻害効果はJNK以外の経路あるいはMnknの直接阻害によることが示された。 (2) Mnk1/2-KO細胞を利用して、近年開発されたMnk阻害剤Tomivosertib (eFT508)の細胞内Mnk1およびMnk2に対する阻害特性を解析した結果、本阻害剤はMnk1(IC50=9.8nM)よりもMnk2(IC50=2.2nM)を強く阻害することが示された。一方、Mnk1とMnk2の両方を発現している野生型HeLa細胞では阻害効果が弱まる結果(IC50=22nM)となり、Mnk1とMnk2の物理的/機能的相互作用が示唆された。 (3) 2種類のmTORCs阻害剤を用いてmTORとMnk1/2のクロストークについて解析した結果、mTORC1活性の阻害によるeIF4Eリン酸化の亢進はMnk2によって媒介されること、このシグナル経路の活性化にはmTORC2活性が関与することから、mTORC2→Mnk2→eIF4Eの活性化経路があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『研究実績の概要』で記したように、Mnk1/2の活性制御機構の研究計画(計画1及び2)についてはおおむね順調に進展した。またこの過程で、CRISPR/Cas9システムを用いた一過性の薬剤耐性選択法によってHeLa細胞で多数(~7個の遺伝子)の遺伝子を同時にノックアウトできることが判明したので、JNKやp38MAPKなどのMAPKメンバーを同時ノックアウトしてシグナル経路の解析を重点的に進めたため、この計画部分は想定以上に速く進んだ。しかし、HeLa以外の細胞におけるMnk1/2ノックアウトについてはHEK293細胞のみに留まり、血球系細胞でのCRISPR/Cas9システムの条件検討は完了できなかった。また、eIF4Eのリン酸化によるトランスレイトーム変動を解析する計画については、mRNAと翻訳開始複合体を免疫沈降する抗体の選定や解析手法の検討を行う段階に留まった。
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今後の研究の推進方策 |
『研究実績の概要』で記した成果を踏まえ、当初の研究計画1~3をさらに発展させた研究を実施していく予定である。特に、HeLa細胞ではCRISPR/Cas9システムを用いた一過性薬剤耐性選択法で少なくとも7個の遺伝子までの同時ノックアウトが可能であることを見出したので、今後、同時ノックアウトの効率を詳しく解析するとともに、オフターゲット変異や標的遺伝子間の転座などの悪影響についても検討して、本法の有効性と限界を明らかにする。また、JNKおよびp38MAPKの各メンバーを網羅的にノックアウトしてストレス応答におけるeIF4Eリン酸化経路を解明する研究を進める。過去2年間に、Mnk阻害剤Tomivosertibが、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)の増殖を特異的に抑制する可能性が示唆され(J. Med. Chem. 61、 3516-40、 2018)、また、がん細胞の悪性化に伴う免疫チェックポイントリガンドPD-L1の発現亢進にはMnkを介した翻訳制御が関与することが報告された(Nat. Med.25、 301-311、2019)。そこで次年度は、各種のBリンパ腫由来細胞でMnkノックアウトを実施し、増殖抑制およびPD-L1発現制御におけるMnkの役割を解析することを急務として研究を遂行する。この際、PD-L1 mRNAの5'非翻訳領域に存在する上流ORFを介した翻訳制御の解析手段としてeIF4E-mRNA免疫沈降法(RIP)を行う予定であるが、これは同時に計画3の網羅的トランスレイトーム解析の条件検討のためのパイロット実験としても有用であると期待できる。
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