研究課題/領域番号 |
19K07095
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
小西 守周 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (00322165)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 再摂食 / 肝細胞障害 / FGF21 / 好中球 |
研究実績の概要 |
個体において、慢性的な栄養不足の状況から急激に栄養を摂取することで、特徴的かつ様々な生理的変化が生じることが知られている。臨床においても、この生理的な変化は問題視されており(Refeeding症候群)、その結果として死亡する例なども報告されていることから、大きな問題であると考えられている。そこで研究代表者は再摂食に伴う生理変化のメカニズムの解明を目的に、2019年度は、再摂食により生じる代謝変化の中でも、肝炎に着目して検討を進めた。 2018年度までに、マウスにおいて48時間の絶食処置の後、グルコースを含む寒天を自由摂食(再摂食処置)させると、著しい肝細胞障害が生じることを見出していたが、本年では、この際に肝臓に好中球の著しい浸潤が起こること、さらにその浸潤に関してはケモカインであるCXCL1の肝臓における産生増強が起こることを明らかにした。一般にアルコール性肝障害や薬剤による肝障害では好中球の浸潤が起き、これにより肝細胞破壊が進むことが知られており、再摂食に際しても、好中球浸潤を中心としたメカニズムで肝細胞破壊が進むものと考えられた。 さらに、2018年度に研究代表者は再摂食処置により血中のFGF21濃度が著しく上昇することを見出していた。この知見をもとに、FGF21と好中球浸潤、肝障害との関係を検討した。FGF21ノックアウトマウスでは、再摂食による肝障害が抑制されることを見出した。またこの時、CXCL1の肝臓における誘導や、好中球の浸潤が抑制されていることも見出した。すなわち、再摂食の条件では、肝臓で誘導されたFGF21が肝臓でのケモカイン産生を介し肝臓に好中球を誘導する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、2019年度に再摂食による生理変化に関して、肝炎を中心に検討を試みるとした。2019年度の実績において、FGF21に着目して再摂食による肝炎のおおよそのメカニズムが明らかにされた。2020年度以降に行うとしたメカニズムの解析に一部踏み込んで検討を進めることができたので、肝臓に関する検討としては当初の計画以上に進展しているものと評価している。一方、再摂食による生理変化に関し、肝臓以外の生理変化の解析は2019年度の計画に含まれていたものの着手できなかった。すなわち、肝臓の生理変化以外の臓器における解析は遅れている。以上の理由により、総合的に見て本研究おおむね順調、という評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で肝臓由来の分泌因子FGF21が肝細胞障害の発症に寄与する可能性が示唆された。しかしながら、FGF21によりどのように肝細胞障害が起こるのか、そのメカニズムについては不明である。したがって、この肝細胞障害のメカニズムの解明として、受容体の情報や細胞内メカニズムを中心に検討することを今後の研究目標の一つとする。 また、申請者らのこれまでの研究より、内分泌因子であるFGF21はエネルギー代謝を制御しているだけではなく、T細胞の分化を通じて個体免疫機能を制御する可能性が示唆されている。したがって、再摂食により免疫機能が変化する可能性も期待できる。そこで個体免疫を中心とした検討を行う。具体的には、胸腺におけるT細胞分化制御などに注目して検討を進める。 これら以外にも、再摂食は個体の生命活動に大きく影響を与えることが期待される。再摂食による肝臓や免疫機能以外の機能変化、その基盤となるメカニズムの解明も同時に行なっていく予定である。 さらに、肝障害のメカニズムの解明や個体免疫への影響の検討とともに、FGF21の調節を介したRefeeding症候群の治療法の確立も試みる。特に、FGF21に特異的に結合する中和抗体を用い、再摂食に伴い生じる生理機能変化をFGF21の中和抗体の投与により抑制できるかどうかを検討する。
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