研究課題
これまで極度の栄養不全状態からの栄養補給の影響を検討する目的で、マウスにおいて2日間絶食後に糖質を再摂食させ、その際生じる生体変化を観察してきた。その結果、糖質の再摂食直後において、好中球浸潤による肝細胞傷害が生じることを報告してきた。一方、この絶食からの再摂食を繰り返すことで、肝臓の傷害が悪化するかどうかは検討していなかった。したがって2021年度は、1週間の期間で2日絶食、5日自由摂食を、計4週間繰り返す間欠絶食モデルを作製し、4週間自由摂食を続けたコントロール群と比較した。Balb/cマウスを用い、上記の間欠絶食処置を行なったところ、2日間の絶食により体重が著しく減少したものの、その後の5日間の自由摂食期間で体重はコントロール群よりやや少ない程度にまで回復した。自由摂食期間の最終日の肝臓重量はコントロール群、間欠絶食群で差はなく、また肝傷害の程度や好中球の浸潤に関しても差は認められなかった。すなわち、絶食後の再摂食を繰り返しても肝傷害は悪化しないこと、さらに絶食後に生じる肝傷害は一過性のものであり、十分に再摂食期間を設定できれば回復できる可能性が示唆された。一方で、間欠絶食群で胸腺重量が著しく増加することも明らかにした。一般に、胸腺は加齢や絶食で退縮する一次免疫器官であり、T細胞の成熟に関わる。今回間欠絶食で生じた胸腺増大について、その責任細胞を検討したところ、CD4分子CD8分子を共に持たない非常に未成熟なT細胞と、CD4とCD8のいずれも陽性の一段階成熟が進んだT細胞が著しく増加していることが明らかとなった。先にも述べたように、胸腺はT細胞の分化成熟を支配しており、すなわち個体の獲得免疫の成立に貢献する組織である。今後、間欠絶食後の獲得免疫反応をマウス個体レベルで検討していくことで、栄養による免疫機能調節という新しい概念を提示できるかもしれない。
すべて 2021
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FASEB J.
巻: 35 ページ: e21663
10.1096/fj.202002784RR.