本研究課題は、KCNQ (Kv7) K+チャネル(活性化閾値が低く不活性化しないM電流に関わるK+チャネル)の掻痒調節への関与とそのメカニズムの解明を目的としている。昨年度はcheekモデルやcalfモデルの研究室内での確立に努め、薬物の薬理作用を検討する準備が完了したことから、本年度はこれらモデルを用いてKCNQチャネル開口薬retigabineの作用を検討した。 Cheekモデルでは、腹腔内投与したretigabineは、カプサイシン投与によって誘発される痛みを反映するwiping行動およびクロロキンやcompound 48/80によって誘発される痒みを反映する引っ掻き行動を抑制した。すなわち、retigabineは鎮痛だけではなく鎮痒作用も併せ持つことがわかる。また、calfモデルにおいて、脊髄髄腔内投与したretigabineは、カプサイシン注射後の痛みを反映するlicking行動を弱め、クロロキンやcompound 48/80投与後の痒みを反映するbiting行動を抑制した。すなわち、retigabineの鎮痛作用と鎮痒作用において、脊髄が重要な作用部位であることを示している。 我々は別の研究課題においてretigabineが神経障害性疼痛モデルマウスの機械的アロディニアや熱痛覚過敏を緩解し、この緩解作用はKCNQチャネル阻害薬XE-991で拮抗されることを明らかにしている。しかし、calfモデルにおけるretigabineの鎮痒作用はXE-991で抑制されなかった。また、昨年までに本研究課題で示したneckモデルにおけるretigabineの鎮痒作用に対しても、XE-991は拮抗作用を示さなかった。これらのことから、retigabineはKCNQチャネル開口による鎮痛作用を示す一方、その鎮痒作用はKCNQチャネル開口に依存しないことが明らかになった。
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