研究課題/領域番号 |
19K07106
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
村上 慎吾 中央大学, 理工学部, 教授 (40437314)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 薬物誘発性不整脈 / 再分極予備能 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
今年度においては、IKr阻害が状況により異なる活動電位幅延長効果をもたらす理由を説明し、薬物誘発性不整脈発生リスクの予測に役立てることを目的として、抽象的に使われてきた概念である再分極予備能(repolarization reserve)を厳密に再定義し、この再定義に基づく新規の定量的なリスク評価方法を構築・評価した。従来の再分極予備能の定義は、IKrが阻害された条件下で他のイオンチャネル電流が代償的に再分極に貢献するというものであった。我々は再分極予備能を活動電位幅が延長した時に活性化して流れる電流の源、と再定義した。この定義に基づき、 O'Hara Rudyらによるヒト心室筋細胞モデルに活動電位固定法を適用し、活動電位幅を延長した条件下で活性化する再分極予備能による膜電流を計算した。活性化した再分極予備能による膜電流の電流・電圧関係を定量的に評価することにより、再分極予備能の特性を定量的に特徴付けることができた。薬物誘発性不整脈発生リスク予測における、定量化された再分極予備能の有効性を確認するために、上記の定量化手法を用いて様々な条件での再分極予備能の特性を確認した。例えば、逆頻度依存性を今回の手法で定量的に評価・予測することができた。また、心臓の心室壁において外膜側、中層、内膜側の各場所で、活動電位幅のばらつきが大きいと不整脈が発生しやすいと考えられているが、このばらつきも今回の手法で予測・説明できることを示した。さらに、今回の手法を、不整脈発生の危険性の違い知られている4種類の薬物に対して応用した。4種類の薬物のモデルを構築し、心筋細胞モデルや今回の手法と組み合わせることにより、再分極予備能の活性化特性の違いにより、薬物の危険性の違いを説明できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進展により、従来曖昧に使われてきた再分極予備能を定量的に定義することで、薬物や心不全などでのリモデリングによる再分極予備能の量の増減を知ることが可能になった。本研究で提案される指標は定量的であり、実際の実験でも計測・評価でき、不整脈発生の危険性を評価できるものとなった。再分極予備能を、従来のような実験結果の後付けの解説のための象徴的な概念ではなく、実際に定量的な評価や予測に使える概念へと昇華することができ、初年度に期待された成果を出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、薬物誘発性不整脈の「トリガー」である早期後脱分極の発生条件を検討する。従来の考え方では徐脈時に薬物により活動電位が延長すると必然的に早期後脱分極が発生すると仮定していたが、実際にはIKrを阻害して活動電位が延長する薬物でも早期後脱分極の有無に違いがある。しかも、早期後脱分極を担うL型カルシウムチャネルを流れる電流(ICaL)を減少させるICaL阻害薬でも必ずしも早期後脱分極を抑制するわけではない。例えば、ベプリジルはIKrとICaLの双方を阻害し活動電位を延長するが、早期後脱分極が発生し、薬物誘発性不整脈も発生する。このような早期脱分極の発生の違いを予測・説明するために、非選択的IKr阻害剤がICaLに与える影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
該当年度末において、複数の学会発表を行うとともに次年度の研究において必要な備品を購入する予定であったが、コロナウィルスのため参加予定であったすべての学会が誌上開催となり、備品の購入もしばらく大学に立ち入ることができなくなるので差し控えた。翌年度においては、大学が再開次第に研究に必要な備品の購入を再開すると同時に、誌上開催された学会分を補うべく今まで発表したことがなかった学会での発表も検討する。
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