研究課題/領域番号 |
19K07109
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
松本 健次郎 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (10406770)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 温度感受性受容体 / 過敏性腸症候群 / TRPM8 / 社会的敗北ストレス / 脳腸相関 |
研究実績の概要 |
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome, IBS)は主にストレスに起因して、腹痛、下痢、便秘を慢性的にくりかえす疾患である。IBSの病態は不明な点が多く残されており、様々な病因が推察されている。本研究は幼少期のストレスとしてマウス社会的敗北ストレスを用い、ストレス改善効果の報告されているメントールの受容体として同定された温度感受性TRPM8チャネルをIBSの新規治療標的として着目し、研究を行った。 IBSの実験動物モデルは少ないため、本研究では、初めに若齢期のトラウマを想定したマウス社会的敗北ストレスによるIBSモデルの確立を行った。若齢期社会的敗北ストレスは成熟期でも維持され、不安、うつ様の行動亢進、内臓痛覚過敏および、成熟後の再ストレス(拘束ストレス)に対する感受性増大が観察された。したがって本モデルは若齢期のストレスによるIBSモデルとして有用である可能性が推察された。 本モデルにおいて、TRPM8欠損動物を用いて検討を行ったところ、野生型で確認された、ストレスの維持、うつ、不安様の行動、内臓痛覚過敏、下痢などの症状がTRPM8の欠損によって増悪することが示唆された。さらにTRPM8-EGFPマウスを用いて、発現解析を行ったとことTRPM8は、大腸、脊髄後根神経節、脳において発現していることが明らかとなった。本年度の検討結果から、TRPM8は若齢期社会的敗北ストレスによる不安様行動、IBS様の消化器症状を抑制する因子として重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに①IBSモデル動物の作製、②病態評価、③TRPM8の発現について検討を完了した。そのため概ね順調に進行していると判断した。しかし、若齢期敗北ストレスはストレス後の通常飼育期間が5週間と長いため、行動薬理試験における不安、うつ様の行動が安定しないなどの課題も生じてきた。以下に詳細を示す。 ①若齢期社会的敗北ストレスモデルの確立に成功した。本モデルはIBS様の症状を示すことから、新規IBSモデルとして有用であることが示唆された。研究成果について学会発表を行い、学術論文の作製を行った(現在リバイス中)。 ②TRPM8欠損動物と野生型動物の比較研究から、TRPM8の欠損によってIBS様の病態が悪化する事が示唆された。しかし、行動薬理試験において個体間のバラツキが大きく、ストレスの感受性の差が影響していることが示唆された。 ③TRPM8の発現解析は、市販の抗体での検出が困難であったため、本研究において非常に重要な課題であった。TRPM8-EGFPマウスの導入、繁殖の成功により安定的にTRPM8の発現解析を行うことができるようになった。免疫組織染色による検討から、TRPM8は大腸において、内在性・外来性の知覚神経に発現していることが観察された。さらに中枢においても発現していることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
IBSの病態におけるTRPM8チャネルの役割を明らかにするためには、中枢、末梢におけるTRPM8の発現神経の性質を明確にすることが極めて大事である。そこで今後の研究では、大腸、脊髄後根神経節、脳におけるTRPM8発現細胞のキャラクタライズを行う予定である。さらにIBSモデルにおける発現変化についても検討を行っていく。 若齢期の社会的敗北ストレスの維持や個体差について検討を行うため、ストレスの感受性による群分けや社会的敗北ストレスの時期を成熟後に変更することにより、TRPM8の欠損と不安、うつ様の行動との関連性を詳細に明らかにしていきたいと考えている。 さらにはTRPM8選択的作用薬WS-12を皮下、脳室内投与後の急性作用、そして長期皮下投与による、治療効果を検討する予定である。本研究はIBSの病態における腸、脳におけるTRPM8の役割を明らかにするだけでなく、新規IBS治療薬の開発につながるものとなると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、海外の学会がコロナの影響で中止になったため、旅費が減額となった。次年度も学会はオンライン開催が中心になると考えられるため、主に物品費として使用予定である。
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