研究実績の概要 |
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome, IBS)は主にストレスに起因して、腹痛、下痢、便秘を慢性的にくりかえす疾患である。IBSの病態は不明な点が多く残されており、様々な病因が推察されている。本研究は幼少期のストレスとして社会的敗北ストレスを用い、ストレス改善効果の報告されているメントールの受容体として同定されたTRPM8をIBSの新規治療標的として着目し、研究を行った。 4週齢雄性C57BL/6マウスに1日1回10分間攻撃マウス(12週齢雄性ICR)による接触と隣接飼育を行った。これを10日間繰り返し行い、その後9週齢まで通常環境で飼育した。若齢期社会的敗北ストレス負荷は、攻撃マウスに対するストレスが成熟期まで持続されることを確認した。若齢期ストレス負荷群では、大腸における5-HT、CGRP発現の増加、内臓痛覚過敏、不安・うつ様行動ならびに腸内細菌叢の変化が検出された。また、成熟後の拘束ストレス負荷は、若齢期ストレス群では対照群と比較して、排便数の増加、血中コルチコステロン、セロトニン、扁桃体ノルアドレナリンの有意な増加が検出された。以上の結果から若齢期社会的敗北ストレスは、新規IBSモデルとして有用であることが示唆され、学会や原著論文により報告した。さらにTRPM8欠損マウスを用いた検討では、本モデルにおける内臓痛覚閾値の低下、腸内細菌叢の変化、拘束ストレス負荷時の排便数の亢進がより顕著に認められた。ゆえにTRPM8はIBS症状の緩和に関与していることが示唆された。
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