研究課題/領域番号 |
19K07115
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
山地 賢三郎 公益財団法人東京都医学総合研究所, 疾患制御研究分野, 主任研究員 (40508628)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪肝炎 / 肝線維化 / β-カテニン/CBPシグナル阻害剤 |
研究実績の概要 |
成人における非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD) の有病率は約25%に上り、NAFLDのうち10-20%は肝硬変や肝がんへと進行する非アルコール性脂肪肝炎 (NASH) と考えられている。NASHの患者数は日本を含めて世界的に増加傾向にあり、肝硬変や肝臓がんの主因となりつつある。NASHにおいて、肝線維化の進展がその予後や発がんに寄与することからその治療が重要となるが、NASHに起因する肝線維化/肝硬変だけでなく、NASHそのものに対する薬物療法は存在しない。 これまでにβ-カテニン/CBPシグナル阻害剤 PRI-724をNASH誘発性肝線維化モデルマウスに投与すると、NASHに起因する肝線維が有意に減弱することを見いだしている。NASHの発症によって肝脂肪化、肝細胞障害や肝線維化が惹起されるが、これらの解析を進める中でPRI-724投与によって脱肝線維化と並行して肝臓の組織構造が正常化する興味深い作用が認められた。本研究では PRI-724によるNASHに起因する肝線維症からの脱肝線維化および肝細胞機能の正常化に伴って変化する細胞群の機能とその誘導機構を明らかにすることを目的としている。 NASH肝線維化モデルマウスにPRI-724を6週間投与後、分離した肝臓内リンパ球について1細胞遺伝子発現解析を実施した。NASHの進展に伴ってTrem2+CD9+マクロファージが増加したが、PRI-724投与群ではこれら細胞数に変化はなかった。一方で、PRI-724投与により炎症性因子を発現しているマクロファージの減少や線維化抑制因子を発現しているマクロファージの増加が認められた。現在は引き続き肝臓内リンパ球での解析を継続するとともに、肝臓内好中球に着目して研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PRI-724によって誘導される線維分解に関わるMMP-9はマクロファージや好中球が産生することが明らかとなっていることから、まずは肝臓内リンパ球に着目した。NASH肝線維化モデルマウスにPRI-724を6週間投与後、分離した肝臓内リンパ球について1細胞遺伝子発現解析を実施した。NASHの進展に伴い、Trem2+CD9+マクロファージの細胞数が増加したが、PRI-724投与によるこれら細胞数への影響は認められなかった。一方で、PRI-724投与により炎症性因子を発現しているマクロファージの減少や線維化抑制因子を発現しているマクロファージの増加が認められた。別の網羅的解析から、PRI-724投与が好中球に関連する因子を発現することが明らかとなったため、現在は好中球に着目してさらに解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
PRI-724投与後の肝臓から分離した細胞の1細胞遺伝子発現解析を2021年度も引き続き行う。さらにプロテオーム解析などにより、PRI-724の標的となりうる分子、シグナル、転写因子などについてそれらの関与を明らかにする。 PRI-724投与試験を行う際、脱線維化作用や肝臓組織構造の正常化作用が弱い個体が一部存在することから、投与量及び投与間隔の最適化検討も行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響によりマウス実験が計画しにくかったため、飼料代が余剰となった。 また、1細胞遺伝子解析を実施するにあたり、研究室ですでに購入していた試薬を多く用いたため、その試薬購入のために計上した金額の一部が未使用額となった。 次年度では、その余剰分はマウス飼料の購入に使用する予定である。
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