研究課題/領域番号 |
19K07118
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
鈴木 絵里子 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (00468513)
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研究分担者 |
蓮見 惠司 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20208474)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アドレナリン受容体 / IL-6 / 抗炎症 |
研究実績の概要 |
SMTP は、真菌由来の生理活性物質であり、作用標的分子として、炎症関連酵素soluble epoxide hydrolase (sEH)が同定されている。sEHは、C末端およびN末端領域にそれぞれ異なる生理活性脂質の代謝を担う活性中心を持つ二機能性酵素である。C末端epoxide hydrolase(C-EH)は生体内で抗炎症性の脂質epoxideを基質とし、特異的阻害剤も複数報告されているが、N末端phosphatase(N-phos)に関しては生理的基質や特異的阻害剤に関する知見に乏しい。しかしながら、sEH欠損マウス(sEH KO)が、心血管疾患、脳梗塞を始め、炎症や組織障害に抵抗性を示す一方で、C-EHおよびN-Phosのいずれかの活性を欠く一塩基多型(SNP)の表現型はむしろ易炎症性であり、心疾患や循環器疾患のリスクが高いことや両領域がアロステリックに活性を制御しあうことなどからも、sEHの有する二つの酵素活性には、炎症制御において、未だ明らかにされていない生理的役割が存在するものと考えられた。そこで、sEH阻害とsEH KOの表現型が遺伝子発現レベルで異なるパターンをもたらすか、解析することとし、sEHが関与する抗炎症に関わる分子機序をより詳細に紐解くことを目指した。SMTPの長期投与による遺伝子発現変動パターンを、sEH KOのそれと比較した。マイクロアレイによる遺伝子発現解析の結果、SMTP投与とsEH KOが極めて類似した遺伝子発現変動パターンを示し、二者で共通して上方制御される遺伝子の多くがIL-6の制御下にあることを発見した。これを端緒に、SMTPが筋組織特異的にbeta2アドレナリン受容体(AR)の下流のシグナルを増強することにより、IL-6発現増強を促し、炎症制御を担うユニークなメカニズムを発見するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
筋肉および脂肪組織をIL-6産生臓器として特定できただけでなく、その後、血管内皮細胞系でも新たにLPS誘導接着分子の発現にN-phos阻害が寄与することを明らかにした。このことから、beta2AR-IL-6増強シグナルと、LPS誘導接着分子発現に至る経路(主にNF-kB経路)阻害シグナルに共通する転写調節因子が関与するとみて、研究を進めることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
現在、生体内におけるN-phosの基質分子の網羅的探索を試みており、複数のリン脂質を候補分子として同定した。今後、これらの生理活性について、先の血管内皮細胞活性化の系、およびbeta2AR-IL-6活性化の亢進を指標としたin vitro、in vivoの系を用いて、検証していく。N-phos基質分子がこれらを共通して制御することが明らかになれば、シグナル調節分子の同定、全く新しい炎症制御機構を提唱することが可能になるかもしれない。
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