本研究において、我々は、種々の炎症性疾患動物モデルにおいて、著効を示す生理活性物質SMTPの抗炎症の標的分子を可溶性エポキシドヒドロラーゼ(=soluble epoxide hydrolase: sEH)と同定したことを端緒に、SMTPによるsEH阻害により発現する抗炎症作用が、炎症を正負に制御するpleiotropicなサイトカインであるIL-6の緩徐な上昇を介してもたらされることを見出した。また、その機序として、主に筋肉・脂肪組織におけるbeta2アドレナリン受容体活性化が関与し、beta2AR-IL-6シグナルの増強が、脂肪肝の改善を始め、さまざまな炎症性の病態改善をもたらすことを明らかにした。炎症抵抗性の表現型を示すsEH KOマウスにおいても、血中IL-6は高いレベルを維持していた。さらに、sEHの有する二つの酵素活性の内、主にN末端のホスファターゼ阻害がこのシグナルの増強に関わることを発見した。炎症制御に置いて、これまでsEHのC末端エポキシドヒドロラーゼ(C-EH)が着目され、阻害剤開発が進められてきたが、N末端ホスファターゼ(N-phos)に関しては、in vitroではLPA、S1Pが基質として機能することが報告されてはいるものの、生理的基質に関する明確なエビデンスがなかったことから、阻害剤開発等の研究の展開が立ち遅れていた。我々は、本研究の知見をもとに、新たにN-phos阻害剤の探索および生理的基質の探索研究を進めており、結果、複数の修飾アミノ酸にN-phos特異的阻害活性を認めた。さらに、生理活性基質として、LC-MS/MSによる網羅的解析を行い、複数のリン脂質を同定するに至った。本研究に置いて、これまで着目されなかった新しい炎症制御の機序として、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)N末端ホスファターゼ阻害を介したb2AR-IL-6シグナルの増強が炎症制御の要となることを発見した。
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