超高感度タンパク質プロファイリングに基づいた薬効予測系の創成を目指し、本年度は以下の研究を遂行した。アルツハイマー病の主要な危険因子の一つであるアミロイドβタンパク質(Aβ)の立体構造に着目し性質の異なる4つのAβを用いて、それぞれのAβと相互作用するタンパク質を探索することで細胞毒性とシナプス毒性の機序の違いを明らかにする。4つのAβを用い、それらと相互作用するタンパク質を質量分析・比較定量により網羅的に解析を行った。具体的には、磁気ビーズ(FGビーズ)を利用したアフィニティー精製を用いた。6週齢のC57BL/6NcrSlcマウスから抽出した海馬タンパク質溶液、ビオチン標識Aβ(4種)をバッファー中で混合し反応させた後、HM Streptavidin FG beadsを添加し、さらに反応させた。磁気によりFG beadsを保持することで、beadsに結合したタンパク質のみを回収し、その全量を質量分析に供した。性質の異なる4つのAβと相互作用タンパク質の違いを網羅的に解析した。その中から細胞毒性への関連が予想されるタンパク質として数種類の候補タンパク質が見出された。その中の一つとして、アクチン切断タンパク質 cofilin のリン酸化を介して、細胞接着とアクチン骨格を制御するTESK1に着目した。神経系細胞株であるPC12細胞を用いて検討を行ったところ、Aβ処置によるcofilinのリン酸化は、溶媒処置と比較して増加傾向が見られた。以上の結果からAβは、TESK1に直接相互作用することでcofilin活性に影響し、細胞骨格系の異常を惹起することで細胞毒性が発現する可能性が考えられる。
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