研究課題
本研究では、新規に開発された非ペプチドで低分子のPACAP受容体アンタゴニストが、不安やうつ病などのストレス性精神疾患の新たな治療薬になりうる可能性を行動薬理学的手法を用いて検討し、精神行動の改善効果が認められた場合には、その改善作用につながる脳領域や関わる分子を探求することで、精神的なストレスが病態を引き起こす発症メカニズムの手掛かりを見出すことを目指す。令和元年度は、以下の研究成果を得た。1) 定常状態の野生型マウスに対して、複数の新規PACAP受容体アンタゴニストの行動薬理学的検討を行った。その結果、どのアンタゴニストにおいても、オープンフィールド試験時の新奇環境下での自発運動量の低下や中央滞在時間の減少、明暗試験での明箱滞在時間の減少、強制水泳試験での無動時間の増加などといった行動異常は、認められなかった。2) 急性時の精神的ストレスを負荷したマウス(単回拘束負荷マウス)を用いて、複数のPACAP受容体アンタゴニストの行動薬理学的検討を行った。その結果、これらの新規PACAPアンタゴニストは、ストレス負荷により生じた不安様行動の増加を抑制することを明らかにした。3) 新しく恐怖条件付け試験を立ち上げた。これらの成果は、この新規PACAP受容体アンタゴニストが、ベンゾジアゼピン系の薬剤などで認められるような定常状態のマウスに対する鎮静作用などの有害事象を示さずに、病態時にのみに有効な薬理作用を発揮する可能性を示した。
2: おおむね順調に進展している
本年度に計画した行動実験に関して、当初の予定通り進展できた。定常状態のマウスにおける行動薬理学的検討や、急性時の精神的ストレスを負荷したマウスにおけるオープンフィールド試験や明暗試験などの行動薬理学的検討など、計画通りに遂行できた。また、恐怖条件付け試験などの新規試験系の立ち上げも順調に進められている。
高速高精細全脳イメージングシステムFASTを用いて、PACAP受容体リガンド投与マウスにおける急性または慢性ストレス時の神経活動の全脳解析を実施し、どの脳領域において、神経活動の変化が認められるか、詳細な検討を行う。また、PACAP-Creマウスを用いることで、ストレス負荷時におけるPACAP神経依存的な神経活動の検出を試みる。
コロナウイルスウイルス感染症の拡大により、3月中旬に参加予定だった学会や、共同研究者との打ち合わせのための出張が中止になったことから、次年度使用額が生じた。
すべて 2019 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件) 備考 (2件)
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