本研究は、カルニチン/有機カチオン膜輸送体OCTN1がてんかん発作にどのような影響を及ぼすのかを解明し、OCTN1の新規てんかん薬物治療標的分子としての可能性を示すことを目的として行った。まず、OCTN1がてんかん発作にどのような影響を及ぼすのかを明らかとするため、pentylenetetrazole (PTZ)を野生型マウスとoctn1遺伝子欠損マウスに投与し、PTZによって引き起こされるけいれん発作を観察したところ、OCTN1の遺伝子欠損によりけいれん発作が抑制されることが明らかとなった。PTZの投与に伴い、野生型マウスでは海馬におけるc-fosの発現が顕著に増加したが、octn1遺伝子欠損マウスではこのc-fos発現増加が有意に抑制された。OCTN1は膜輸送体であるため、PTZの臓器中濃度に影響を及ぼす可能性について検討したが、脳、血漿、肝、腎のPTZ濃度は、野生型マウスとoctn1遺伝子欠損マウス間で差は見られなかった。野生型およびoctn1遺伝子欠損マウスから回収した海馬、大脳皮質前部、血漿サンプルをLC/Q-TOF-MSで網羅的に測定し、アンターゲットメタボローム解析を行い、OCTN1のin vivo基質候補化合物としてhomostachydrineを同定した。Homostachydrineを野生型マウスに投与すると、海馬や大脳皮質前部のhomostachydrine 濃度は上昇し、PTZ誘発けいれん発作が増悪した。一方、OCTN1の良好なin vivo基質である抗酸化物質ergothioneineを野生型マウスに投与すると、海馬や大脳皮質前部のhomostachydrine 濃度は低下し、PTZ誘発けいれん発作は抑制された。以上より、膜輸送体OCTN1はhomostachydrineを輸送することにより、けいれん発作を増悪させる可能性が示された。OCTN1の遺伝子欠損によりマウスに目立ったフェノタイプが現れないことから、OCTN1に特異性の高い阻害剤を開発することにより、副作用の少ないてんかん治療薬の開発につながることが期待される。
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