研究課題/領域番号 |
19K07128
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
三澤 日出巳 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (80219617)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 神経変性 / 筋萎縮性側索硬化症 / 凝集体 / 伝播 / グリアリンパ系 |
研究実績の概要 |
遺伝性ALSの原因遺伝子である変異型SOD1を過剰発現させたトランスジェニックマウスでは、運動神経に毒性SOD1分子種(オリゴマーや凝集体)が蓄積し、運動神経が進行性に死滅する。近年、脳からの代謝物・老廃物の新たな排泄機構としてグリアリンパ系が注目されている。グリアリンパ系では、脳血管を覆うアストロサイト足突起へのアクアポリン4 (AQP4)の集積が重要であり、脳実質内への水流入と代謝物・老廃物の洗い出しの駆動力を担う。我々は、ALSモデル(SOD1G93A)マウスにおいてAQP4を欠損させたところ、病態が加速(病状が悪化)することをすでに報告しいている。本研究では、このマウスの脊髄に蓄積する毒性SOD1分子種をELISA法により定量したところ、AQP4欠損したALSモデルマウスではSOD1オリゴマーの蓄積量が増加 することが観察された。次に、この毒性SOD1の脊髄からの排泄(クリアランス)にグリアリンパ流が関与するかを解析するために、脊髄内に毒性SOD1を微量注入し、そのクリアランスをウエスタンブロット法で評価したところ、野生型 マウスに比べ、AQP4欠損マウスでは毒性SOD1のクリアランス遅延が起こることが示された。一方で、ALSマウスでのAQP4の発現・局在を調べたところ、顕著な発現上昇と局在異常が観察された。この変化がグリアリンパ系にどのように影響するかを調べるため、蛍光標識したトレーサータンパク質をCSF中に投与し(大槽内投与)、脊髄へのトレーサータンパク質の流入・流出を解析したところ、ALSマウスでは脳実質でのタンパク質の蓄積がより起こりやすくなっていることがわかった。以上の結果から、ALSマウスのグリアリンパ系では、一方向性の流れの障害と、淀みの発生が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グリアリンパ系の定量解析は難易度が高く、標準的方法は未だに確立されていない。我々の実験ではグリアリンパ流を、CSFから脳実質への「流入」と脳実質から脳外への「流出」に分けて解析することが可能となったが、そのモデル化・定量化については検討途上にある。定性解析から定量解析へと移行するためには、コンパートメントと速度定数による記述が要求されるので、今後検討したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
変異SOD1の細胞間伝播を検出するには特異抗体による検出感度が未だに不十分であった。そこで、広く研究が行われているパーキンソン病原因遺伝子アルファーシヌクレインの細胞間伝播の実験系を用い、AQP4の欠損による効果を解析することで、グリアリンパ系と凝集体タンパク質伝播の関連を検討する計画である。
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