研究課題/領域番号 |
19K07129
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研究機関 | 北陸大学 |
研究代表者 |
松尾 由理 北陸大学, 薬学部, 教授 (10306657)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熱性痙攣 / 小児 / 炎症性サイトカイン / プロスタグランジンE2 / 神経炎症 / 神経発達異常 / アポトーシス / 癲癇 |
研究実績の概要 |
本研究は、小児熱性痙攣後の神経発達異常と脳炎症の関連を明らかにすることを目的としている。我々はこれまでに、脳虚血やパーキンソン病の神経障害にプロスタグランジンE2(PGE2)の誘導型合成酵素である膜結合型PGE2合成酵素-1(mPGES-1)が寄与することを示してきたため、特にmPGES-1の関与について検討を行った。 熱性けいれんモデルとして、これまでは、幼児マウス腹腔内に、起炎剤としてリポ多糖(LPS)を投与した後に単回の熱照射により痙攣を誘発していたが、PGE2量はむしろ低下した。そこで、痙攣を繰り返す複雑型熱性痙攣モデルとして、LPS投与後に複数回熱照射を行うこととした。痙攣を繰り返すことで、脳内のPGE2量が有意に増加した。痙攣に関与する海馬と発熱に関与する視床下部を採取してmRNA発現を確認したところ、炎症性サイトカインのIL-1βとTNFαが、単回けいれんモデルに比べ顕著に発現増加した。従って、現在、この複雑型熱性けいれんモデルを用いて、mPGES-1欠損型マウスやEP3受容体欠損型マウスとWTマウスとの比較検討を行っている。 また、既にmPGES-1の誘導と痙攣への関与が報告されているカイニン酸誘発痙攣モデルも用いて、痙攣誘発後産生するPGE2の役割についても、EP3受容体欠損マウスを用いて検討を加えた。カイニン酸誘発痙攣はEP3受容体欠損型マウスで抑制され、死亡率も低かった。海馬のグリア細胞の活性化や炎症性サイトカインの産生、神経細胞死もEP3受容体欠損型マウスで抑制された。従って、痙攣誘発にEP3受容体が深く関与することが示唆された。 今後、より癲癇への発展しやすい複雑型熱性けいれんモデルでの解析をさらに進め、神経発達と癲癇進展へのPGE2の影響を明らかにする予定である。本研究により、難治性癲癇の新たな治療ターゲットを提唱出来るものと期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
小児熱性けいれんモデルにおけるmPGES-1の役割を明らかにすることを試みてきたが、単回の熱照射では、顕著な誘導は検出なかった。条件を少しずつ変えながら検討を繰り返し、複雑型熱性けいれんモデルとして、複数回熱照射するモデルを用いることとした。これにより、脳内のPGES2量が増加し、mPGES-1も増加傾向がみられている。現在、カイニン酸によるけいれんモデルで関与が認められている、mPGES-1やEP3受容体の複雑型熱性痙攣での役割について、各欠損型マウスを用いて検討を進めているが、予定よりもやや遅れている。欠損型マウスが、予定通りに生まれないことも原因である。また、コロナ禍で、通常通り進められないこともあり、若干の遅れを生じている。
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今後の研究の推進方策 |
小児熱性けいれんモデルとして、これまでLPS投与後に1回の熱照射を行ってきたが、臨床的には、難治性癲癇に進展する熱性痙攣は、繰り返し生じることが知られているため、より臨床に近い複雑型熱性痙攣モデルとして、複数回熱性けいれんを繰り返すモデルでの解析を中心に進める予定である。1日2回の熱照射による痙攣誘発、或いは、3日間連続した痙攣誘発などで、PGE2の産生や顕著な脳炎症がみられているので、脳内炎症におけるPGE2の役割を、mPGES-1欠損型、EP3受容体欠損型マウスと野生型マスを比較検討することで明らかにしていく。 さらに、mPGES-1の誘導とEP3受容体の関与が知られているカイニン酸誘発痙攣モデルにおいて、脳炎症と神経細胞死におけるEP3受容体の寄与が明らかになってきたため、その下流機序をさらに明らかにしていく。記憶や情動などの行動変化についても検討を加える。 mPGES-1の誘導がどの細胞で見られるのか、脳切片を作製し、各種細胞マーカーとmPGES-1の二重染色により同定していく。また、成人になった時のけいれんのしやすさについても、WTと欠損型マウスで比較検討する。 以上より、根治の難しい癲癇の発症機序が明らかになるだけでなく、熱性痙攣後の薬物療法により、難治性癲癇への進展を抑制できる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)小児熱性痙攣モデルとして、生後10~11日齢という小さなマウスにおいて、熱照射により痙攣を誘発することが出来たが、熱が上がり過ぎたり、痙攣が強く生じ過ぎたりすることで、幼弱なマウスが死に至る場合があり、一方、熱照射を弱めると脳内炎症が生じず、条件検討に多くの時間がかかってしまったため。また、自家繁殖している欠損型マウスが、新型コロナウイルスの感染拡大防止などの影響で、規模を縮小して繁殖しており、小児マウスを用いる実験を予定通りに進めることが困難であったため。さらに、新型コロナウィルス感染防止のため、研究発表会や学会が全てオンライン開催となり、旅費が不要となったため。 (使用計画)本研究では自家繁殖したmPGES-1欠損型マウス、EP3受容体欠損型マウスとその野生型マウスの維持のための床敷きや餌の費用、新たに購入するマウス、ラット等の費用が必要である。また、細胞免疫染色可能な抗体を購入する。グリアマーカーやサイトカイン等のmRNA発現解析のため、primer、mRNA抽出、cDNA作成、qPCRのためのキットを要する。PGE2量、サイトカイン量の測定には、EIAキットを購入する。In vitro培養実験では、動物の他、各種培養関連器具と試薬の購入を要する。さらに、各種生化学的、分子生物学的、薬理学的試薬の購入を予定している。今年度は、本研究成果を国際学会にて報告する。
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