本研究は、小児熱性痙攣後の神経発達異常と脳炎症の関連を明らかにすることを目的としている。特に我々がこれまで研究を続けてきたプロスタグランジンE2(PGE2)の誘導型合成酵素である膜結合型PGE2合成酵素-1(mPGES-1)の関与について検討を行った。 痙攣を繰り返す複雑型熱性痙攣モデルとして、LPS投与後に2回熱照射を行うこととした。痙攣を繰り返すことで、単回の痙攣に比べて脳内のPGE2量が有意に増加した。痙攣に関与する海馬と発熱に関与する視床下部を採取してmRNA発現を確認したところ、炎症性サイトカインのIL-1βとTNFαが、単回痙攣モデルに比べ顕著に発現増加した。そこで、この時のPGE2産生量を野生型とmPGES-1欠損型で比較したところ、野生型で見られた海馬や視床下部のPGE2の増加はmPEGS-1欠損型では消失していた。従って、熱性痙攣後のPGE2産生にmPGES-1が必須であることが分かった。またこの時、野生型マウス海馬において炎症性サイトカインmRNAの有意な増加やグリア細胞の有意な活性化が認められたが、mPGES-1欠損型では有意な変化は認められなかった。従って、熱性痙攣後に海馬にて発現誘導するmPGES-1は、PGE2産生を介してグリア細胞を活性化し、炎症性サイトカインを産生させることが示唆された。炎症反応は、ミクログリアの活性化を介して海馬神経の異所的な発達を起こし、癲癇に繋がる可能性が示唆されている。今後、この変化が癲癇の発症に結びつくのか検討するとともに、PGE2の下流の機序としてEP3受容体の役割について、検討を進める予定である。 本研究により、mPGES-1が、既存の抗癲癇薬とは全く異なる脳炎症を制御する、難治性癲癇の新たな治療ターゲットとなる可能性が示唆された。
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