研究課題/領域番号 |
19K07130
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
横江 俊一 大阪医科大学, 医学部, 助教 (40454756)
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研究分担者 |
朝日 通雄 大阪医科大学, 医学部, 教授 (10397614)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ユビキチンリガーゼ / ホスホランバン / 心不全 |
研究実績の概要 |
ヒト不全心筋では、ユビキチン化タンパク質の過剰な蓄積が認められることから、心不全増悪時に高発現もしくは活性化されるユビキチンリガーゼ(E3リガーゼ)が存在するという考えのもと、E3リガーゼの探索ならびに心機能に及ぼす影響を検討した。我々は、心不全増悪時にユビキチン化が増加しているタンパク質の一つとして心筋小胞体カルシウムポンプ(SERCA2a)の制御因子であるホスホランバン(PLN)を既に明らかにしているが、今回、心臓に存在しているE3リガーゼ「Parkin」が心不全増悪時にPLNのユビキチン化に寄与していることを見出した。すなわち、心不全モデルマウス(NHE1-Tg)の心臓ではParkinとPLNの結合が顕著に増加していることが観察された。また、Parkinと協調して働くことが知られているリン酸化酵素であるPINK1とPLN の結合も顕著に増加していることが観察された。ParkinがPLNの分解系に関与しているかをさらに調べるために、PLN発現HEK293細胞のParkin遺伝子を欠損(ノックダウン)させたところ、PLNの発現が増加した。逆に、Parkin遺伝子を高発現させたところ、PLNの発現が減少した。 以上の結果より、心収縮能調節因子であるPLNをユビキチン化しているE3リガーゼの一つとして、新たにParkinの寄与を示すことができ、PLN分解系の一端を担っていることが明らかになった。心不全病態の改善や治療法の向上を目指す上で、Parkinを標的とした新たな治療戦略を構築できる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
不全心筋において、心収縮能調節因子であるPLNのユビキチン化ならびに分解を担っているユビキチンリガーゼ(E3リガーゼ)を同定するために、心不全モデルマウス(NHE1-Tg)の心臓を用いて研究を進めた。その結果、NHE1-Tgマウスの心臓では、Parkinの発現量が野生型マウス(Wild type)と比較して減少しているにも関わらず、PLNとの結合は顕著に増加していることが観察された。重篤な心不全ではPLNの発現量が減少することが知られているが、その一因として、心不全で活性化してくるParkinがPLNを標的としてユビキチン化の亢進、ならびに分解促進の一端を担っていることが示唆された。PLN発現HEK293細胞を用いた検討でも、ParkinがPLNのユビキチン化ならびに分解に関与していることが示唆された。そこで、ParkinによってPLNのユビキチン化ならびに分解が亢進してしまうのを個体レベルで抑制する目的で、Parkinの発現をノックダウンするアデノ随伴ウイルスベクター6(AAV6)を作製し、NHE1-Tgマウスや冠動脈結紮圧負荷モデル(TACマウス)に投与して、PLNのユビキチン化レベルならびに発現量、心機能を解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
マウス個体レベルで、ParkinによるPLNのユビキチン化および分解亢進、さらに心収縮能への関与を明らかにできれば、Parkinの活性を抑制することが心不全の予防・治療戦略になり得ると考えられる。そのため、Parkinを創薬の標的とした予防・治療戦略を立てるために、Parkin遺伝子を過剰発現、あるいは欠損(ノックアウト)させたiPS細胞から分化誘導させた心筋細胞を用いて、Parkinの発現ならびに活性を制御する薬剤のスクリーニングを行う。Parkinの発現・活性制御によりPLNのユビキチン化・分解を抑制し、心機能の悪化を防ぐことができれば、既存の改善策や治療薬で効果が見られない際に、Parkinを標的とした薬剤の効果が期待でき、心不全根治を目指す新しい原因療法の一つとして有望であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染の蔓延により、国内および海外で参加予定にしていた学会が開催中止、もしくはオンライン開催になったことで旅費の支出が無くなったため、次年度使用額が生じた。次年度は、マウス個体レベルでのParkin遺伝子の役割を解析するために用いるアデノ随伴ウイルスベクター(Parkin遺伝子ノックダウン用)の大量作製・精製に、研究費を使用する予定である。
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