慢性炎症は老化や難治性疾患を引き起こすことが指摘されており、本研究では炎症を抑える医薬シードの発見を目指した効果的な資源探索研究を企図した。 まず、プロスタグランジン類をはじめとする脂質メディエーターは炎症反応の実行因子として古くから注目されていることから、カラギナンを投与した炎症モデルラットを対象として炎症部位における脂質の変動をLC/MS/MS脂質メディエーターメソッドパッケージVer. 2(島津製作所)を用いて網羅的に解析することで、炎症時に最も顕著に変動する、すなわち最も炎症反応に寄与する可能性が高い脂質メディエーターを特定した。特定した炎症性脂質メディエーターの受容体について調査を行い、インビトロでの薬効評価系として炎症モデルラットにおいて変化する候補受容体の下流のシグナル経路を特定し、さらに、候補受容体の発現ベクターを用いた過剰発現系の構築を試みた。しかしながら、受容体遺伝子の増幅が困難であり、現時点では候補受容体の過剰発現系が達成できていない現状にある。 そこで、多種多様な資源を活用した生薬エキスライブラリーの構築を先行して行った。さらに、炎症性メディエーターに類似した構造を有する天然由来脂溶性天然物に焦点を当て、慎重な取り扱いが必要な天然化合物を数種類単離し、その抗炎症作用を検証する計画を立てている。 標的受容体を固定した磁気ビーズを用いたプルダウンアッセイは、極めて多数の成分を含むサンプルの中から活性が期待できる成分を効率的かつ選択的に見出しうる有効な手段と考えており、今後、新規な医薬シードの発見を目指して新世代の天然物化学を展開していく計画である。
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