研究課題/領域番号 |
19K07137
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
宮川 和也 国際医療福祉大学, 薬学部, 講師 (10453408)
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研究分担者 |
辻 稔 国際医療福祉大学, 薬学部, 教授 (70297307)
黒川 和宏 国際医療福祉大学, 薬学部, 講師 (30454846)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 胎生期ストレス / 抑肝散 / 不安 / 情動 / ストレス / セロトニン / エピジェネティクス / ヒストンアセチル化 |
研究実績の概要 |
本研究では、まず、妊娠期に強度のストレス刺激に曝露された母親から生まれた子がストレス刺激に脆弱であるとの臨床報告をもとに、マウスを用いて妊娠期ストレス負荷モデルを作成した。具体的には、妊娠期に強度な拘束ストレス刺激を負荷し、生まれてきた仔が成長した後に、行動学的試験に従い、不安感受性が増加することを確認した。また、近年、胎児期にヒストン脱アセチル化酵素阻害薬を投与されることで、成長後の情動性の変化を引き起こすとが報告されてきている。そこで、妊娠期ストレス負荷モデルマウスの胎児後脳におけるエピジェネティクス制御機構への変化を生化学的手法に従い検討した結果、ヒストン脱アセチル化酵素の発現量に変化が認められた。これらの知見は、妊娠期の母体の強度なストレス曝露によって惹起される子の成長後のストレス脆弱性に、胎児脳でのエピジェネティックな撹乱が一部関与している可能性が示唆された。 一方、胎生期ストレスが惹起する子のストレス脆弱性の病態生理の解明に加え、その治療法の提案を期待した薬理学的研究を行った。すなわち、妊娠期ストレス負荷モデルマウスに対し、出生直後から母子同服で抑肝散を摂取させた。その結果、成長後の不安感受性の増強は抑肝散投与により軽減されることを見出した。現在、このマウスにおける情動調節機構の解明を試みている。 我々は、胎生期ストレスモデルマウスの脳内において、情動調節に重要なセロトニン神経系の機能障害が引き起こされることを報告している。本年度の知見から、その分子メカニズムに胎児期のエピジェネティクス異常が関与している可能性が示唆された。また、抑肝散の治療メカニズムに、エピジェネティクス制御への寄与も考慮したチャレンジングな研究へと進展することとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在、抑肝散母子同服により不安感受性が軽減された動物の脳内分子メカニズムの解明を試みている。当初、2-3月中に再現性の確認と生化学的検討用のサンプル採取のために本モデル動物を作成する予定であったが、コロナ禍ゆえ研究が中断となる可能性が高く、慢性実験をスタートできずにいる。現状では、既に得られた脳サンプルのみを用いて生化学的な検討を実施しているが、計画していた全ての実験を実施するにはサンプル数が少ない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
現状では、母子同服により不安感受性が軽減された動物の脳サンプルを用いて、その分子メカニズの解明を実施している。具体的には、5-HT神経機能分子や、エピジェネティクス制御分子のタンパク質発現変化を、Western blot法に従い検討している。慢性実験をスタートできるタイミングになった際には、再現性の確認と追加の脳サンプル採取を実施し、DNA抽出、RNA抽出、ヒストン抽出など、目的とするサンプルを揃え、多角的に胎生期ストレス負荷による病態生理学的解析、および抑肝散の治療効果の分子メカニズムの解析を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、本年度実施予定だったWestern blot法以外の種々の生化学的検討用の脳サンプルを得るに至らなかった。従って、種々の生化学的検討に関連する物品は2019年度予算では購入せず、サンプルの目処がたった際に、次年度購入することとした。なお、元来、次年度実施予定だった実験については、上記先送りになった実験系と並行して実施することで、可能な限り早期から着手するように努める。
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