研究課題/領域番号 |
19K07138
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
植草 義徳 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (30753024)
|
研究分担者 |
木内 文之 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (60161402) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | フラボノイド / リン脂質膜 / 相互作用 / フラボン / 細胞透過性 / NMR / IAM |
研究実績の概要 |
(1)前年度までに準備したA環に酸素置換基を有するフラボン誘導体について、Caco-2細胞(ヒト結腸癌由来細胞株)を用いた細胞膜親和性および細胞膜透過性実験を実施した。トランスウェルにCaco-2細胞の単層膜を作製し、各フラボン誘導体を管腔側に添加して細胞膜あるいは細胞内の蓄積量を定量した。その結果、蓄積量はフラボン誘導体の種類により大きく異なり、その度合いはリン脂質(immobilized artificial membrane: IAM)カラムを用いたHPLC分析によって得られたリン脂質膜親和性(KIAM値)と強い相関を示すことが明らかとなった。従って、細胞取り込み量(蓄積量)はIAMカラムを用いた分析により得られるKIAM値から短時間かつ簡便に評価できることが示された。細胞透過試験では、管腔側から基底膜側への細胞透過は一置換体においては5位、7位、8位のヒドロキシ基がメトキシ基に置換されると細胞透過性が増加し、6位がメトキシ基に置換されると細胞透過性が減少する傾向が認められた。また、5位にヒドロキシ基を有するフラボン誘導体は細胞透過が見られない、あるいはごくわずかであった。このことから、比較的高いKIAM値を示すフラボン誘導体は管腔側から基底膜側への透過が起こりにくく、細胞膜あるいは細胞内に蓄積されることが考えられた。 (2)モデルリン脂質膜であるバイセルについて、フラボノイド非存在下で溶液NMRを測定し、水溶液中における1H NMR化学シフト、1H緩和時間、および拡散係数を取得した。これらは今後のフラボノイドとリン脂質膜の相互作用解析において有益なリファレンスデータとして利用可能となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前述したように、Caco-2細胞を用いた細胞膜親和性および細胞透過性実験を進め、フラボン誘導体については細胞蓄積量および細胞透過量とリン脂質膜親和性との相関解析が完了した。本研究計画段階で予想していた通り、細胞取り込み量と無細胞系の機器分析で得られたリン脂質膜親和性の値との間で強い相関を示す結果となった。またフラボン誘導体の細胞透過性向上に寄与する化学構造を見出すことに成功した。さらに各フラボン誘導体の生物活性(抗炎症作用)評価も達成した。これらの成果は2020年度に開催された学術集会にて既に発表を行っている。 一方で、COVID-19の世界的拡大により、実験中断や必要消耗品の長期欠品に見舞われたことから、Caco-2細胞を用いた実験はフラボン誘導体のみの検討となり年度末を迎えた。当初はCaco-2実験の結果を踏まえて、高いリン脂質膜親和性と生物活性を有するフラボノイドを選定し、モデルリン脂質膜との相互作用解析に着手する予定であったが至らなかった。しかしながら、フラボノイド非存在下におけるモデルリン脂質膜のNMR測定は継続的に遂行し、予定通り完了した。
|
今後の研究の推進方策 |
1.今年度に達成することができなかったフラボノール誘導体について、Caco-2細胞を用いた細胞膜親和性および細胞透過性実験を同様に実施する。機器分析で得られたリン脂質膜親和性との相関性、および化学構造と細胞膜透過性との関係について、フラボン誘導体で得られた結果と比較し、フラボノイド全般にあてはまるのかどうかを検証する。 2.高いリン脂質膜親和性と生物活性を有するフラボン誘導体およびフラボノール誘導体について、モデルリン脂質膜に作用させて溶液NMR測定を行い、NMR化学シフト、緩和時間、分子間の空間的距離情報、および拡散係数を取得する。本相互作用に重要な化学構造および構造的基盤を原子レベルで明らかにし、相互作用モデル図を作製する。 3.細胞膜親和性および生物活性に重要な部位(化学構造)を考慮してフラボノイドの構造展開を行い、より高い生物活性を有する化合物を創出する。
|