研究課題/領域番号 |
19K07141
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
一柳 幸生 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (80218726)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ブルサトール / ブルセオシド A / RA-VII / Brucea javanica / Rubia cordifolia |
研究実績の概要 |
本年度は、フッ素化天然物アナログの合成原料として用いるカッシノイド化合物のブルサトールおよびRA系ペプチド化合物の供給を中心に実施した。内容を以下の4点に要約する。 1.アタンシ(Brucea javanica の果実)を粉砕後メタノール抽出して得たエキスを液-液分配操作、続くカラムクロマトグラフィーと分取HPLCにより分離し、ブルサトールおよびその配糖体のブルセオシド Aを得た。また、ブルセオシド Aをブルサトールへ効率的に変換する方法を確立した。 2.茜草根(Rubia cordifoliaの根)より調製したメタノールエキスをポリスチレン樹脂カラムクロマトグラフィーで粗分けしたのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、分取HPLC等により分離し、デオキシボウバルジン、RA-VII等の主要RA系ペプチド化合物を得た。その分離の過程で微量成分として新規RA系ペプチド化合物1種を単離し、マススペクトル、IRスペクトルおよび各種二次元NMRスペクトルデータの解析により、その平面構造を決定した。最終的に臭素化誘導体のX線結晶解析により、絶対配置を含めて構造決定した。本化合物はデオキシボウバルジンのTyr-6のヒドロキシ基にフェニルプロパノイドがエーテル結合した化合物であった。 3.RA-VIIの生体内代謝による不活性化を抑制する目的で、そのTyr-5の2箇所のε位水素原子をそれぞれフッ素原子で置換した2つのアナログ(互いにアトロプ異性体の関係にある)の改良合成を行った。 4.新規導入したMacroModelとワークステーションの配座探索能力の評価を行い、RA-VIIでは結晶構造に近い安定配座が得られることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においてフッ素化アナログの合成は天然物からの変換反応を主軸とするため、植物材料から天然物を効率的に供給する方法を確立することも課題の一つである。生薬アタンシにはフッ素化アナログの原料となるブルサトールが含まれているが、主成分はその配糖体ブルセオシド Aである。ブルセオシド Aからブルサトールへの変換は、ブルセオシド Aを酸触媒存在下過熱して結合糖(D-グルコース)を加水分解する方法が報告されているが、収率は40%程度と低く副生物の分離が繁雑なため、ブルサトールを大量供給するうえで実用性に問題があった。ブルセオシド Aをナリンギナーゼで処理すると、糖鎖が切断されたブルセオシンが収率良く得られることを見出した。さらにそのジオスフェノール構造の異性化反応を種々検討し、定量的にブルサトールへ変換する条件を見出した。これにより、アタンシよりブルサトールを効率的に供給できるようになった。 2.同様に生薬茜草根のメタノール抽出エキスの吸着樹脂による分画、続くカラムクロマトグラフィーと分取HPLCによりフッ素化アナログの原料となるデオキシボウバルジン、RA-I、RA-III、RA-VIIを単離精製できた。 3.RA-VIIのTyr-5のε位にフッ素原子を導入したアナログは、以前著者らが微量の合成に成功しているが、複数の合成ルートを検討したものの、いずれも収率や生成物の分離工程に問題があり、生物活性評価に供する試料の供給に制約があった。そこで、鍵化合物であるN,N-ジメチルシクロイソジチロシンの改良合成法を確立し、実用的な収率でアナログを供給することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
ブルセオシド Aより効率的にブルサトールへ変換する手法を確立できたため、本法を用いてフッ素化反応に用いるために十分な量のブルサトールを供給する。また、カッシノイド骨格のD環部の修飾を行う原料として、ブルサトールおよびブルサトールの15位のアシル基の構造が異なる類縁体から、ブルサトールの15位脱アシル体に相当するブルセオリドへの効率的な変換方法を確立する。これらの原料を十分に確保したのち、先ずこれらの分子中に3箇所もしくは4箇所存在するヒドロキシ基への保護基の導入反応を行うことで、各ヒドロキシ基の反応性についての知見を得たのち、カッシノイド骨格へのフッ素原子の導入反応を検討する。フッ素原子の導入位置と立体配置については、NMRスペクトルおよびMacroModelを用いた配座解析により決定する。 RA系ペプチドについては、HPLCによる天然RAペプチド化合物の単離・精製作業を継続する。現在進行中の作業により得られる反応用RAペプチドの供給量が研究遂行上の必要量に満たないことが予見される場合は、あらためてRA系ペプチド含量の高い市場品茜草根の選抜を行ったのち、生薬の入手と抽出によりエキス調製を実施する。また、本年度ペプチド成分の分離過程で新規RA系ペプチド化合物を単離できたことから、微量成分についても単離・精製し、新規化合物については二次元NMRスペクトル、マススペクトル、X線結晶解析等を用いて構造決定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
化学計算ソフトウエアMacroModelを実行するワークステーションの納入価格が予定していた価格より安価であったこと、ならびに本年度使用した試薬類等はいずれも保有していたものを使用したため、23,752円の差額が生じている。次年度MacroModelソフトウエアの年間使用料の改訂(値上げ)が予定されているため、次年度分として請求した助成金と併せて使用する予定である。
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