研究課題/領域番号 |
19K07142
|
研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
奥 輝明 星薬科大学, 薬学部, 講師 (20409361)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | マスト細胞 / アレルギー / スーパー抗原様タンパク質 / SSL / 黄色ブドウ球菌 / Coronin-1 / アクチン結合タンパク質 / PKC |
研究実績の概要 |
本研究は、黄色ブドウ球菌が産生するStaphylococcal superantigen-like proteins (SSLs)やマスト細胞に発現するアクチン結合タンパク質Coronin-1に焦点を当て、アレルギー応答におけるマスト細胞の機能制御機構の解明を目指している。 SSLsは14種類のファミリータンパク質が報告されているが、本研究では、マウス骨髄由来マスト細胞(BMMC)への抗原抗体複合体刺激による脱顆粒反応を減弱させたSSL11を中心に解析を行っている。大腸菌にて発現・精製したSSL11がBMMCやラットマスト細胞株RBL-2H3の細胞表面に結合することを明らかにし、SSL11のプルダウン実験から約85 kDaの結合タンパク質の存在が示唆された。しかしながら、予め表面分子をビオチン化した細胞を用いて同様にプルダウン実験を行い、streptavidin-HRPにて検出したところ、約46 kDaのバンドが最も強く検出された。次いで、薄いながらも約44、85、63、120 kDaにバンドが検出された。これまでの方法では、プルダウンに用いたSSL11(約48 kDa)に結合タンパク質が埋もれていた可能性が考えられた。 一方、抗原抗体複合体刺激によるマスト細胞の活性化に伴いCoronin-1のSer-412がリン酸化されることを明らかにしている。このリン酸化に関与するリン酸化酵素について解析を行った結果、プロテインキナーゼCα(PKCα)に依ることが明らかになった。マスト細胞へのPKCα阻害薬の前処理により、脱顆粒の低下およびSer-412のリン酸化が抑制されたが、直接的な因果関係は不明であるため明らかにする必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マスト細胞表面をビオチン化することで、SSL11に結合するマスト細胞の表面分子について解析することができるようになった。SSL11を固相化したプレートに浮遊細胞であるBMMCを播種すると細胞形態が著しく変化し、プレートに強く接着することが明らかになった。また、2019年度に作製した抗SSL11抗体はBMMCとSSL11の結合を阻害しないことが示された。さらに、2019年度に作製したSSLsファミリータンパク質の発現ベクターを用いて各タンパク質を大腸菌に発現させた後、精製し、BMMCの細胞形態の変化について解析した。その結果、タンパク質配列の類似性の高いSSL2、SSL3、SSL4、SSL5、SSL6についても同様にBMMCの伸展が認められた。 Coronin-1のノックアウトマウス由来のBMMCに抗原抗体複合体刺激を行った際,IL-6の産生量は野生型と比較して減少していることが明らかになった。Ser-412のリン酸化とIL-6産生の関係について調べるために、KOマウス由来BMMCへのCoronin-1野生型やリン酸化部位の変異体(S412A)のレスキューを行ったが、タンパク質の発現量の違いなどにより結論付けることが困難であった。また、Ser-412のリン酸化機構を解析するためにリン酸化酵素の特定を行った。RBL-2H3細胞に対して、CRISPR/Cas9システムによりPKCα遺伝子をノックアウトしたところ、Ser-412のリン酸化は抑制され、PKCαのレスキューにより回復することが明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
マスト細胞の脱顆粒反応の減弱作用の他、サイトカイン(TNF-a、IL-6など)産生能や細胞内情報伝達にSSL11が影響を及ぼすかを明らかにする。また、マスト細胞溶解液からSSL11と共精製されるタンパク質を回収し、MALDI-TOF-MSなどによるフィンガープリンティングを行いSSL11が結合する分子を特定する。特定されたタンパク質の遺伝子をマスト細胞よりノックアウトまたはノックダウンした後、SSL11の結合性を解析することでSSL11の受容体を同定する。マスト細胞の機能を抑制できるSSL11の分子ドメインを明らかにする。さらに、マスト細胞の形態に影響を与えたSSL11以外のSSLsがマスト細胞機能に及ぼす影響について解析する。 また、マスト細胞の機能発現にCoronin-1のSer-412のリン酸化がどのように関与しているかを明らかにする。KO細胞へレスキューする野生型および変異体Coronin-1の発現量を一致させることが困難であったため、CRISPR/Cas9システムを利用し、リン酸化部位の遺伝子改変マウスの作製を目指す。2019年度の研究において、CRISPR/Cas9システムによる培養細胞のCoronin-1遺伝子への変異の導入は成功している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 消耗品の国内在庫がなく、生産が年度内に満たされなかったため未使用金が生じた。 (使用計画) 現在、当該消耗品の流通が回復したため、予定通りに研究を進められる。
|