感染症を引き起こす細菌の中で様々な抗菌薬に耐性を示す薬剤耐性菌、中でも多剤耐性菌による感染症が世界的に大きな問題となっている。これらは治療法が乏しく重篤な症状を引き起こす。多剤耐性菌感染症の治療法の一つとして、細菌を殺菌するファージによるファージ療法が非常に注目されており、有用なファージの探索とバンク化はファージ療法の実用化において非常に意義深い。 今年度も前年度に引き続き、多剤耐性化が問題視されESKAPEの略称で知られる細菌群のうち、黄色ブドウ球菌(S)、クレブシエラ属菌(K)、アシネトバクター属菌(A)、緑膿菌(P)の各菌に感染できるファージの探索およびゲノム解析を行なった。 下水や土壌といった環境サンプルを用いてファージ探索を行ない、数種のファージを得た。その後の解析で有用だと判断したものはゲノム解析を行なった。 本研究期間全体の成果として、以下の点が挙げられる。環境サンプルの収集およびサンプル調製、環境サンプルと標的宿主菌の前培養、その後のファージスクリーニング方法といったファージ探索に必要な各段階の手順を比較検討し、効率的かつ多様なファージの収集方法を確立した。主にESKAPE菌のいくつかの菌種でファージスクリーニングを実施して、多剤耐性菌に感染できるファージを多数収集することができた。またそれらの特徴づけとして、複数の臨床分離株を用いて殺菌活性測定をハイスループットに行う系を確立し、ファージ感染の有無と感染の程度を解析した。このうち、感染の宿主域が広いファージについては全ゲノム解析およびその特徴づけを行なった。本研究で得られた方法およびファージを基盤として、さらに規模を拡充したファージバンクの確立に発展していければと考えている。
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