牛車腎気丸の老化促進モデルマウスにおける骨格筋萎縮抑制作用が知られていた。そこで、ミオシンを特異的にユビキチン化するユビキチンリガーゼの一種であり、骨格筋の委縮に強く関与しているMuscle RING-Finger Protein-1 (MuRF1) の転写抑制作用を指標に、マウス横紋筋由来株化細胞であるC2C12細胞を用いて牛車腎気丸構成生薬の各エキスを作用させたところ、ブシとシャゼンシの各エキスに有意な活性を認めた。そこで、本研究では、ブシに含まれる有効成分を単離、同定し、ブシが配合される生薬・漢方製剤を製造する際に指標成分として品質管理に利用し、より有用性の高い牛車腎気丸製剤を開発することを目的とした研究を行った。 デキサメタゾンは、分化したC2C12細胞のMuRF1プロモーターの発現を誘導し、これはブシ熱水抽出物メタノール可溶性部分によって濃度依存的に抑制され、IC50値は1.5 mg/mlであった。続いて、それに含まれる有効成分の分離を試みヒゲナミンとサルソリノールを得た。それらのIC50値はそれぞれ0.49 μMと50 μMであった。ヒゲナミンは、正常状態のC2C12細胞ではMuRF1 mRNAの発現を抑制せず、デキサメタゾンによって誘発されるMuRF1 mRNAの発現を有意に抑制した。また、ヒゲナミンはデキサメタゾン誘発性MAFbx/atrogin1、Cbl-b、BCAT2、Bnip3のmRNA発現も有意に抑制した。 日本で市販されているブシ製剤それぞれの熱水抽出物中のヒゲナミンとサルソリノールの含有量を定量したところ、それぞれの化合物の含量の平均は、0.12 ± 0.12 μg/mlおよび14 ± 9 μg/mlであった。ブシを筋萎縮に使用する時には、これらの化合物の含量が高いブシ製剤を選択することで、より高い効果が期待できる可能性が示唆された。
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