合計2万種以上の微生物培養液およびケミカルライブラリーを用いたc-Mycとの合成致死スクリーニングを実施したところ、最も活性の高い化合物はTQ(TriQuinoline)であった。マウスにおける抗腫瘍性試験の予備実験として、投与量を決定するための急性毒性試験を行った。TQを50 mg/kgから10段階希釈して経口、経静脈、腹腔内に投与した。その後2週間体重の変化と生死を観察したところ、経口および腹腔内投与では50 mg/kgでも生存したが、経静脈投与では12.5 mg/kg以上で直死した。 次にTQの抗腫瘍活性をxenograftモデルで解析した。当初の計画ではスクリーニングで使用していたヒト乳がん細胞株Hs578Tで治療実験を行う予定であったが、Hs578Tがマウスに腫瘍形成できなかったため、約50種類のがん細胞株を用いてTQのin vitroにおける薬剤感受性を評価した結果からヒトメラノーマ細胞株LOX-IMVIを用いることにした。TQは5 mg/kgの経静脈投与および腫瘍内投与でLOX-IMVIに対し有意な抗腫瘍効果を示した。 さらにより強い抗腫瘍活性を得るために20種類のTQ誘導体を合成し、合成致死作用をin vitroで解析したところ、合成致死作用はTQと同程度であるが、MCF-7とHs578Tに対する細胞増殖抑制活性がTQの100倍強い誘導体が2つ得られた。そこで、この2つの誘導体の急性毒性試験を実施したところ、TQより急性毒性が弱いことが明らかになった。そこで、TQと同様にLOX-IMVIを用いたxenograftモデルで抗腫瘍性を解析したところ、残念ながら想定外の毒性が出現し抗腫瘍効果は認められなかった。
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