研究実績の概要 |
本研究は、申請者が開発した"ex vivo内側血液網膜関門輸送評価系"の、網膜への薬物デリバリーを実現する上での有用性を実証することを目的に遂行している。単離した網膜毛細血管フラクションにおいて他の網膜細胞混入が最小限であること、そしてP-糖タンパク質を始めとした各種薬物排出トランスポーター機能が維持されているが本研究を通じ明らかとなった。これら知見は英語論文として纏め、J. Control. Releaseに受理・掲載されている (J. Control. Release, 343, 434-442 (2022))。 また、糖尿病モデル動物から単離した網膜毛細血管においてP-糖タンパク質機能減弱について、本血管におけるP-糖タンパク質発現量変化とその機能減弱とは相関しないことが示された。これまでの研究において、単離網膜毛細血管に発現するP-糖タンパク質機能は、炎症時において減弱することを、そしてその減弱にはToll-like receptor 4介在受容体シグナル経路が関与することもまた示唆されている。以上の結果から、糖尿病病態時における血液網膜関門P-糖タンパク質機能は、その発現量に依らず変動し、そのプロセスには各種シグナル系が関与することが示唆された。さらに、本変動メカニズムの詳細を探る上で、本研究を通じ確立された単離網膜毛細血管実験系は有用なツールとなり得ると考えらえる。 本研究を通じて、単離網膜毛細血管実験系だけではなく、網膜への薬物移行性をより良く評価するin vitro実験系として内側血液網膜関門多細胞・階層性スフェロイドの確立にも成功している。これら確立した実験系・実験材料は内側血液網膜関門を介した薬物輸送を評価する上で有用であり、末梢投与型網膜疾患治療薬の研究・開発を加速させるものと期待される。
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