研究課題
本研究では、血液悪性腫瘍患者における発熱性好中球減少症に対して感染症を鑑別でき、かつ予後を予測できる新規バイオマーカーとしてのmid-regional pro-adrenomedullin(MR-proADM)の有用性を検討することを目的としている。令和元年度の研究実績は以下のとおりである。MR-proADMは生体内で低濃度であること、分子量5000程度の比較的大きな物質であることから、測定に高い感度を要するため、その測定には免疫学的測定法が広く用いられている。しかし、一般的に免疫学的測定法では、免疫学的類似物との交差反応による特異度の低下などが測定に影響を及ぼし、正確な測定が行えていないことが懸念される。そのため精度、選択性ともに優れる測定法として、超高速高分離液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析 (UPLC-MS/MS) を用いた測定系を確立した。サンプルの前処理には手技の簡便性、夾雑物の除去率を考慮し除タンパク法および固相抽出法を選択した。確立したUPLC-MS/MS法での測定の分析単位内、分析単位間のQuality controlの正確度はそれぞれ -0.69% ~ 8.05%、1.72% ~ 5.74% であった。また血漿からの回収率は89.7% ~ 93.0%、matrix effectは 127.0% ~ 135.9%であった。定量下限値は0.4 ng/mLであり既存の免疫学的測定法と同程度の測定感度であった。またUPLC-MS/MS法で測定した血漿MR-proADM濃度と免疫学的測定法による濃度との間に強い相関性が認められた (r2 = 0.6167, p < 0.001)。以上より、UPLC-MS/MSを用いた血漿中MR-proADM濃度の測定系が確立された。現在、大分大学倫理委員会による承認を受け、患者リクルートを開始している。
2: おおむね順調に進展している
UPLC-MS/MSを用いた血漿中MR-proADM濃度の高感度かつ特異度の高い定量法が確立し、臨床応用可能であることが明らかとなったため。また、共同研究先である血液内科学講座との詳細な打ち合わせも完了し、大分大学医学部倫理委員会による承認を受け、患者リクルートを開始できているため。
まずは、血液悪性腫瘍患者における発熱性好中球減少症発症後の血漿中MR-proADM濃度の推移に関する検討を行うための症例のリクルートを完了する。目標が20例であるため、令和2年度中に達成できると予想される。他の感染症に関するバイオマーカーの推移との比較を行い、論文化を検討する予定である。
MR-proADMの測定が当初の予定よりやや遅れており、購入した消耗物品が当初の予定より少なくなり、次年度使用額が生じた。その費用を用いてMR-proADM標品、内標準物質、96 well固相抽出用MCX μElution plate、移動相用有機溶媒を購入する。また、令和2年度の結果について、論文投稿費および学会発表による旅費に使用する予定である。
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J Pharm Biomed Anal
巻: 183 ページ: 113168
10.1016/j.jpba.2020.113168.