研究課題/領域番号 |
19K07181
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研究機関 | 神戸常盤大学 |
研究代表者 |
井本 しおん 神戸常盤大学, 保健科学部, 客員教授 (50263380)
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研究分担者 |
澤村 暢 神戸常盤大学, 保健科学部, 講師 (20709042)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 輸血後鉄過剰症 / ヘム / フェロトーシス / 細胞内不安定鉄 / フェリチン / 鉄キレート剤 / 抗酸化剤 |
研究実績の概要 |
本研究テーマは「マクロファージを標的とした輸血後鉄過剰症治療薬の探索」である。昨年に引き続き、ヒト単球系培養細胞THP-1に対するヘミンの細胞傷害作用を測定する方法により、以下のような成果が得られた。 1)ヘム鉄と非ヘム鉄の細胞傷害作用の比較:ヘムによる細胞傷害作用に鉄が果たす役割を明らかにする目的で、ヘミンと非ヘム鉄化合物(ferric ammonium citrate (FAC)、ferrous ammonium sulphate (FAS))との比較検討を行った。細胞内不安定鉄(labile iron pool: LIP)、活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)、細胞死比率、を比較した。ヘミン処理ではLIP、ROSが上昇し細胞死誘導が認められたが、FAC、FASではLIP、ROSの上昇は軽微で細胞死誘導は認められなかった。一方、非ヘム鉄量および鉄貯蔵蛋白フェリチンの発現量は、ヘミン処理後もFAC処理後も同レベルであった。以上の結果から、細胞内でヘミンから遊離した鉄はLIPとして細胞傷害に寄与し、非ヘム鉄は速やかにフェリチンと結合し安定化されることが示された。 2)ヘミンによる細胞死は、鉄キレート剤、フェロトーシス阻害剤、抗酸化剤で効率的に抑制された。鉄キレート剤deferasirox (DSX) とferroptosis 阻害剤ferrostatin-1 (FS1)を併用すると、単独よりも細胞死抑制作用が増強した。鉄キレート剤、抗酸化剤、フェロトーシス阻害剤を組み合わせることでヘミンによる細胞死をより効果的に抑制できる可能性があり、よりよい輸血後鉄過剰症の治療法に繋がることが期待される。以上の研究成果をTransfusion and Apheresis Science に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、細胞内の不安定鉄量(LIP)を、蛍光試薬calcein -acetoxymethyl ester (CA-AM)を用いてフローサイトメトリーで測定することができた。ヘミン処理ではLIPが上昇するが、FACまたはFAS処理ではLIP上昇が軽微であることがわかった。ニトロソPSAP法で測定した細胞抽出液の非ヘム鉄量は、ヘミン処理もFAC処理後も同程度に上昇していた。したがって、ヘミンでは細胞内のヘムオキシゲナーゼにより遊離した鉄がLIPとして働くのに対し、FACの鉄は細胞内で速やかに安定化されると推定された。 また、ウェスタンブロッティング法の改良により、鉄貯留蛋白フェリチンの発現量をより定量的に測定することができた。THP-1では無処理でもフェリチンを高発現しており、ヘミン処理後もFAC処理後も発現量に変化がないことがわかった。 輸血後鉄過剰症の治療モデルとして、THP-1に対するヘミンの細胞傷害作用を抑制する薬剤の組み合わせについて検討を進めた。臨床で使用されている3種類の鉄キレート剤(deferoxamine (DFO)、deferasirox (DSX)、deferiprone (DFP))のうち、ヘミンの細胞死を抑制する作用は、DSXが最も強力であること、Ferroptosis 阻害剤FS1、ミトコンドリア選択的抗酸化剤も細胞死抑制作用を示すこと、DSXとFS1の併用は細胞死抑制作用を増強することが示された。抗酸化剤α-tochoferolはヘミンの細胞死誘導を抑制したが、高濃度(1000μM)が必要であった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究成果から、鉄キレート剤、フェロトーシス阻害剤、抗酸化剤がヘミンの細胞死に対する抑制作用を示し、これらを組み合わせて使用することで、副作用を悪化させずに抑制作用を増強できる可能性が示された。2021年度は、これらの薬剤をどのような組み合わせで投与するとより良好な治療効果(細胞死抑制作用)が得られるかを調べていく。 また、高脂血症治療薬、降圧剤、骨粗鬆症治療薬などは、輸血後鉄過剰症の患者にも使用されていることが多い。なかでも、スタチンやビスホスフォネートは、単球・マクロファージに対する多様な作用が報告されている。これらの薬剤と鉄キレート療法薬との相互作用について、効果と副作用の両面から探究を進めたい。 THP-1とヘミンを用いたアッセイシステムは簡便であり、鉄過剰症以外の領域についても、例えば動脈硬化や神経変性疾患の治療薬の探索にも応用が期待できる。。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は3年計画の3年目であり、これまでの研究成果をもとに、目標達成に向けて研究を遂行していく。具体的には、輸血後鉄過剰症の治療として、鉄キレート剤、抗酸化剤、フェロトーシス阻害剤のなかから、細胞死抑制に最適な組み合わせを見いだすことである。 細胞培養、治療薬、評価項目の測定に必要な試薬など、研究遂行に必要な物品購入に使用する。
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