研究課題/領域番号 |
19K07184
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
舩田 正彦 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 薬物依存研究部, 室長 (20299530)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 毒性・医薬品安全性学 / 薬物治療・トキシコロジー |
研究実績の概要 |
本研究の目的: 危険ドラッグによる痙攣発現メカニズムに関する詳細な研究を実施する目的で、代表的な危険ドラッグである合成カンナビノイドによる痙攣の発現強度を、客観的かつ定量的に測定する実験解析システムを開発する。初年度では、脳波の変化に着目して、マウス痙攣強度定量のための脳波解析システムを構築した。2020年度(2年度)については、合成カンナビノイドを研究対象薬物として、合成カンナビノイドによる痙攣発現時ならびに無動状態の脳波変化と海馬および小脳内のグルタミン酸遊離変化について検討した。 (1)合成カンナビノイドによる痙攣発現とグルタミン酸遊離変化:ICRマウスを使用して、無麻酔・無拘束条件における脳内グルタミン酸変動を経時的に測定した。合成カンナビノイドのAB-CHMINACA投与による痙攣発現時のグルタミン酸遊離変化を検討したところ、海馬内グルタミン酸遊離は増加していた。合成カンナビノイドによる痙攣発現には、海馬におけるグルタミン酸遊離増加が重要な役割を果たしていると考えられる。 (2)合成カンナビノイドによる無動状態発現とグルタミン酸遊離変化:合成カンナビノイドのAB-CHMINACA投与による無動状態発現時のグルタミン酸遊離変化を検討したところ、海馬内グルタミン酸遊離に影響は認められなかった。一方、小脳内グルタミン酸遊離は減少していた。合成カンナビノイドによる無動状態発現には、小脳におけるグルタミン酸遊離の減少が関与すると考えられる。 以上の結果から、危険ドラッグによる痙攣発現および運動機能抑制作用の発現には、脳内グルタミン酸遊離の変化が重要であると考えられる。合成カンナビノイドによる痙攣発現には海馬におけるグルタミン酸遊離増加、無動状態発現には小脳におけるグルタミン酸遊離の減少が重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(2年度)は、危険ドラッグである合成カンナビノイドによる痙攣発現時ならびに無動状態の脳波変化と海馬および小脳内のグルタミン酸遊離変化について検討した。 (1)バイオセンサーを用いた脳内グルタミン酸濃度変動の検討:当初の予定通り、グルタミン酸測定用のバイオセンサー(酵素センサー)を利用して、マウスを対象として、海馬および小脳をターゲットとしたグルタミン酸測定のキャリブレーション法、解析パラメーターなどの測定条件を確立することができた。 (2)合成カンナビノイドによる痙攣発現時のグルタミン酸遊離変化:合成カンナビノイドによる痙攣発現時のグルタミン酸遊離変化を検討した。合成カンナビノイドのAB-CHMINACA投与による痙攣様行動発現時、海馬内グルタミン酸遊離は増加していた。一方、無動状態では海馬内グルタミン酸遊離に影響は認められなかった。一方、無動状態発現時の小脳内グルタミン酸遊離を検討したところ減少が確認された。合成カンナビノイドによる痙攣発現には、海馬におけるグルタミン酸遊離増加が重要な役割を果たしていると考えられる。一方、合成カンナビノイドによる無動状態発現には、小脳におけるグルタミン酸遊離の減少が関与すると考えられる。 (3)合成カンナビノイドによる運動機能抑制とグルタミン酸遊離変化:合成カンナビノイドおよびエタノールによる運動機能抑制発現時のグルタミン酸遊離変化を検討した。合成カンナビノイドのAB-CHMINACAおよびエタノール投与による運動機能抑制発現時において、小脳内グルタミン酸遊離は減少していた。合成カンナビノイドおよびエタノールによる運動機能抑制発現には、小脳におけるグルタミン酸遊離の減少が関与すると考えられる。 以上、2年度に計画していた課題について当初の予定に従って研究を実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度(2年度)は、危険ドラッグである合成カンナビノイドを研究対象薬物として、マウスにおける脳内グルタミン酸経時変化測定システムを確立した。2021年度(3年度)は、合成カンナビノイドによる痙攣発現および運動機能抑制発現機序に関する研究を実施する。合成カンナビノイドについて、痙攣発現および運動機能抑制発現時の脳内グルタミン酸遊離変動との関連性について追加検討する。特に、扁桃体と小脳の機能に着目して脳内グルタミン酸遊離変動を解析する。痙攣発現における脳内責任部位を明確にするため、免疫染色法によるc-Fos陽性細胞解析の結果との相関性についても併せて検討する。合成カンナビノイドによる痙攣および運動機能抑制発現メカニズムについて、海馬、扁桃体領域および小脳を中心としたグルタミン酸神経の役割について検討する。また、海馬および小脳については初代培養神経細胞を利用したグルタミン酸神経系の調節様式についても解析を加える。神経ネットワークに対する影響を検討する目的で、マルチ電極アレイによる解析を試みる。また、最近の問題として危険ドラッグに加え、大麻乱用問題が表面化しており、大麻に関する解析が急務となっている。そこで、大麻成分であるデルタ9-テトラヒドロカンナビノールについても検討を加え、類似作用を示す合成カンナビノイドと比較検討する。 本研究によって構築される危険ドラッグに関する有害作用発現の評価系を用いることで、迅速かつ客観的な有害作用の評価が可能となり、危険ドラッグの乱用拡大を防ぐための規制を進めるうえで社会的貢献度の高い研究になると考えられる。
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