研究課題/領域番号 |
19K07191
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 和宏 神戸大学, 医学部附属病院, 講師(若手枠) (30610349)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 上皮間葉転換 / エベロリムス / STAT3 / EMT / ILD |
研究実績の概要 |
肺胞上皮細胞モデルの中から、先行研究において事前予測因子の候補としているSignal Transducer and Activator of Transcription 3(STAT3)遺伝子多型rs4796793の間質性肺疾患(ILD)発症患者の保有率が高かった遺伝子型(C/C)ならびにILDが発症しなかった患者において保有率が高かった遺伝子型(G/G)を有する細胞株をそれぞれ探索した。なお、C/CおよびG/Gの各細胞株におけるSTAT3の発現量および活性度には統一した傾向を認めなかった。それぞれの細胞株に対象薬物であるエベロリムスを曝露すると、C/Cを有する細胞は比較的短期間でEMTが生じたが、一方で、G/Gを有する細胞においては、短期間の曝露ではEMTを生じることはなく、長期的な曝露を行うことでEMTを生じることが明らかになった。また、C/CあるいはG/Gを有するそれぞれの肺胞モデル細胞に対してエベロリムスの曝露後に得られるmRNAの発現変動およびサイトカイン発現を解析し、EMTが生じる細胞において特徴的に変動する因子を特定した。 臨床研究による解析の結果、STAT3の標的遺伝子多型の遺伝子型がC/Cの患者では全例でエベロリムスまたはテムシロリムスによるILDを発症した。なお、ILD発症群と非発症群において年齢や投与量に顕著な差は認めず、C/Cの患者では他の遺伝子型の患者と比較してILDによる治療中止率が高いことを明らかにした。これらの結果は、STAT3の標的遺伝子多型の遺伝子型がC/Cを有する患者においてmTOR阻害薬によるILDを誘発しやすいことやC/C患者が発症するILDは治療中止につながる重症度の高いものであることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、単一の肺胞モデル細胞(A549細胞)を用いて薬物の長期的な曝露によるEMTの誘導とその関連因子を特定する予定であった。しかし、長期曝露細胞における細胞老化の影響が排除できないことや長期曝露細胞では臨床研究の結果をより正確に反映せずに一部のレアな症例に焦点を当てた手法となっていることなどを踏まえ、用いる細胞を再検討した。肺胞上皮細胞株の中から、ILD患者の保有率が高い遺伝子型と非ILD患者の保有率が高い遺伝子型をそれぞれ有する細胞株を探索することで、臨床研究の結果をより正確に再現した基礎研究を行うことができると考えた。これらの変更に伴い、初期検討に時間を要したものの、2019年度の計画で予定していた薬物誘導性のEMTに関連する因子およびそのタンパク質の発現変動の基礎的解析は当該年度内に完了する予定である。また、基礎的検討の一部は2020年度に跨って実施する予定であり、2019年度の予定項目については、全て完了する予定である。一方、前倒しで実施できた検討項目もなく、計画通りの進捗であると判断し、上記区分としている。 臨床研究においては、当初予定していた対象薬物の国内での使用動向の変化から、実施が困難になっており、前向き臨床試験を始めるための準備等も行うことができていない。2019年度内は臨床研究の準備を始める予定であったが、上記理由から計画の再検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
基礎研究については、網羅的解析により特定した変動因子の機能解析を進める必要がある。機能解析については新たな手技を用いる検討項目もあるため、自身や研究室スタッフの技能取得のための研修を行う必要がある。必要に応じて企業の主催する技能研修やワークショップ等に参加し、当分野にない技能の習得を行うことで研究を活性化させることを検討する。基本的な技能についてはこれまで標準化した実験プロトコールを活用することで対応することが可能であるが、自施設のみでの実施が困難である場合には他施設とのネットワークによる手技の習得を図るか共同研究として進めることも考慮する。また、十分なエフォートが割けない場合に、外部業者での実験委託についても考慮する。これまでの進捗状況を鑑みても、残りの研究期間での完遂が十分可能であると想定している。 臨床研究については、これまで得られたデータの再解析を進めている。新規の臨床研究の立ち上げを予定していたが、対象薬剤の使用動向を鑑みると、実施可能性が低い。これまで得られた臨床データと基礎データを統合し、予定とは異なる新たな計画での臨床研究を立案することが次年度の目標となる。部内には臨床薬理に関するデータマネージメントの資格を有する者や医学統計に精通する者が複数在籍しており、研究成果における質は十分に担保されるものと考える。さらに、定期的に開催される院内セミナーや必要性に応じて開催される統計セミナーに積極的に参加し、各方面からアイデアを吸収する。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】 当初の計画では、基礎的検討により使用する器具類を予算として見込んでいたが、器具類については共通使用が可能な実験器具を科研費以外の方法で調達する機会があったことから、本研究費により購入する必要がなくなった。また、前年度以前の科研費で購入した試薬が想定していたよりも余剰となり、新規に購入する量が減少している。これらは科研費申請時には予定しておらす、余剰を発生させた要因の一つである。さらに、ゆとりのある消耗品在庫を保有することで緊急な発注を最小限にし、キャンペーン等と時期を合わせることで非常に安価に必要な消耗品を購入することができたことも影響している。 【使用計画】 予算に余裕があるため、研究室内で自作していたウェスタンブロット用ゲルやバッファーを既製品に変更し、手技の安定化と実験の効率化を図る。また、外部委託可能な手技については可能な限り委託し、結果の安定性とエフォートの確保を図る。主には、サイトカインの定量や機能解析については委託する予定とする。
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