研究課題
これまで申請者はラットを用いた研究においてがん患者の精神的負担の原因の一部には抗がん剤投与による“ストレス脆弱性”の病態が関与しているとの作業仮説を立案するに至った。そこで、本研究では“ストレス脆弱性”の関与因子として知られている脳内トリプトファン経路であるセロトニン経路およびキヌレニン経路に着目し、「セロトニン-キヌレニンバランス破綻仮説」を基盤に病態解明を行うことを目的とした。これまで、このセロトニン神経系およびキヌレニン経路について検討を行った。本年度ではこれまと同様にドキソルビシンおよびシクロホスファミドの抗がん剤を1週間に1回、2週間投与を行ったラットを用いた。その結果、抗がん剤投与により不安症状が発現し、その作用にはセロトニン2A受容体が関与していることを突き止めた。そこで、抗がん剤投与による不安症状に対する有効な治療薬の探索を行った。これまで臨床では抗不安効果を期待して選択的セロトニン再取り込み阻害薬(フルオキセチン:国内未販売)を使用することが多い。このフルオキセチンの投与は、抗がん剤投与ラットの不安症状を解消するのではなく、逆に不安症状を増強する結果となった。これは、抗がん剤投与により脳内セロトニン2A受容体機能が活性化し、その状態で選択的セロトニン再取り込み阻害薬投与によりシナプス間隙でのセロトニンが増加し、その増加したセロトニンがセロトニン2A受容体をさらに活性化するために、むしろ不安症が認めらえたと考えられた。その一方でセロトニン1A受容体を刺激する薬剤は抗がん剤投与による不安症状に対して有効であった。これはセロトニン1A受容体刺激による活性化したセロトニン2A受容体の機能を抑制することで不安症状を解消すると考えられた。本研究結果はがん患者の精神的負担を軽減する一助となる可能性が示された。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Psychopharmacology
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Pharmacology
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