変形性膝関節症(OA)は65歳以上の日本人において55%にも達する疾患であり、その病態の進行は個人差が大きい。数年から数十年をかけて、関節のX線画像で分類されるグレードⅠからⅣに進行する。滑膜の炎症に伴いバリアー機能が破綻すると、関節腔には血漿成分が滞留し、治療目的で関節液は採取除去される。関節液には滑膜細胞から分泌される成分と血漿成分が含まれるが、病態進行に伴う関節液中の血漿成分の経時変化について注目されたことはほとんどない。本研究では、関節液に貯留しやすい血漿成分として、ヒト血漿中に4量体として存在するブチリルコリンエステラーゼ(BChE)とHDLに結合して存在するパラオキソナーゼ(PON1)を選択し、病態グレードとの相関を調べた。閉鎖空間である関節腔では、病態に伴い酸化が進行する可能性があるが、4量体としてのBChEの会合状態や活性はグレード間で相違が認められなかった。一方、PON1はHDL脂質層にN-末のヘリックスが包埋すると同時にアポリポ蛋白A1に結合して存在するが、その活性はグレードⅠからⅡへの進行で約25%低下し、その後の病態では活性は変動しなかった。この活性低下にはHDL-コレステロール量やPON1の遺伝子多型は関係しなかった。残念ながら、活性低下の詳細は解明できなかったが、酸化ストレスによるアミノ酸修飾などが関与すると推測された。この結果はグレードⅠからⅡの初期の進行過程で、PON1が質的に変化することを示しており、変形性膝関節症の初期の形態変化に加え、定量的な診断基準を提案できるものと考える。また、病態の早期に、抗酸化剤の関節内投与が進行の遅延に有効性である可能性を示すものである。本研究結果は、変形性膝関節症の病態の初期段階の進行を定量的に評価する方法を提案するとともに、早期の病態進行を遅延させるための治療方法の開発の糸口になるものと考えられる。
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