癌細胞では、酸化的リン酸化から解糖系への代謝変化が生じているため、固形癌の微小環境は合成が増加した乳酸により細胞外pHが酸性に傾いている。これまでにB16F10メラノーマ細胞において、細胞外酸性pHがグルコース飢餓ストレスによって引き起こされる細胞死を抑制することを明らかにしている。本研究では、B16F10細胞では、酸性pHによって癌細胞の生存に関与するAktのリン酸化が生じることを明らかにした。B16F10細胞の酸性pHによるグルコース飢餓下での生存促進は、Aktの単独阻害では抑制されなかったものの、mTOR阻害剤と併用した際には著しい細胞死の増加が認められた。従って、B16F10細胞では、酸性pHによって活性化されたAktはmTORとともに作用することでグルコース飢餓ストレス誘導性細胞死を抑制している可能性が示唆された。一方、細胞外pHの酸性化は、MKN45およびMKN74胃癌細胞においてもグルコース飢餓ストレスによる細胞死を抑制したものの、これらの細胞では細胞外酸性pHによるAktのリン酸化は認められなかった。従って、酸性pHによるグルコース飢餓環境下での生存促進機構は癌細胞によって異なる可能性が示唆された。 さらに、P388白血病細胞がイダルビシン耐性を獲得する際にも酸化的リン酸化から解糖系への代謝変化が生じることを明らかにした。イダルビシン耐性P388白血病細胞は、解糖系を阻害する2-デオキシグルコース(2DG)を処置した際にP388細胞よりも低濃度で細胞死が認められた。また、2-DGは解糖系の阻害だけではなく小胞体ストレスも誘導するが、小胞体ストレス誘導剤ツニカマイシンに対してはP388細胞の方が低濃度で細胞死が誘導された。従って、解糖系の阻害は、解糖系優位の代謝変化が生じているイダルビシン耐性白血病細胞に対する有効な治療標的となることが示された。
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