研究課題/領域番号 |
19K07200
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
幅野 渉 岩手医科大学, 薬学部, 准教授 (50332979)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 核内受容体 / エピゲノム |
研究実績の概要 |
ヒトは生体外のストレスを感知して様々な反応をする。我々はβ-ナフトフラボン(βNF)曝露による核内受容体AhR(aryl hydrocarbon receptor)を介したCYP1B1遺伝子の発現誘導が、DNA脱メチル化剤の前処理で増強されることを見出した。AhRが特異的に結合するXRE(xenobiotic responsive element)領域には、DNAメチル化の標的となるCpG配列が含まれる。本研究課題では、AhRが標的遺伝子のDNAメチル化状態により応答性を制御する「エピゲノムセンサー」として役割に着目し、AhRの結合応答性を評価する新しい手法の開発を試みた。 2020年度は、2種のヒト肝臓がん細胞(HepG2、HuH7)を対象に、CYP1B1遺伝子内の8箇所のXRE配列のDNAメチル化状態を調べた。また、抗AhR抗体を用いたクロマチン免疫沈降の手法として、cleavage under targets and release using nuclease (CUT&RUN)法を用いた方法を新たに試みた。βNFによる発現誘導がDNA脱メチル化剤の処理で増強するのはHepG2細胞のみであり、これはXRE2/XRE3配列の高メチル化状態で説明可能であった。βNFを曝露した細胞よりCUT&RUN法を用いて回収したAhR-XRE2/XRE3複合体を対象にDNAメチル化解析を行った結果、沈降前ではHepG2細胞において高メチル化状態であった同配列が、沈降後のAhRと結合した配列ではメチル化が認められなかった。同様の結果は、遺伝子増幅産物のプラスミドベクター組換え体を対象としたクローンの解析においても得られた。これよりAhRは非メチル化状態の標的配列と選択的に結合することが明らかになり、AhRを介した応答性が標的配列のメチル化状態により制御される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度はクロマチン免疫沈降の条件検討に労力を要したが、CUT&RUN法を用いたことにより改善された。一方で、デコイ(二本鎖DNA)の細胞内導入による評価系の確立は予想よりも遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、標的配列のDNAメチル化状態とAhRの結合応答性を評価する新しい手法の開発を目指し、2020年度においてはクロマチン免疫沈降とメチル化解析を組み合わせた方法についてその基盤となる研究成果が得られた。2021年度では本研究成果を論文として発表する予定である。 一方、2021年度も引き続きデコイ(二本鎖DNA)を用いた結合阻害実験系の確立を目指す。XRE配列を含むデコイを細胞内に導入することにより、β-ナフトフラボンによるAhRを介したCYP1B1遺伝子の発現誘導が抑制された場合には、AhRのデコイへの結合が推測される。我々は標識したデコイが細胞内へ取り込まれることを共焦点顕微鏡により確認することができた。しかしながら、CYP1B1遺伝子の発現誘導に与える影響には予想とは異なる結果が得られたため、さらなる条件検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文発表の費用を拠出するため、前倒しして支払請求を行った。だが、雑誌への投稿はするものの年度内に採用・掲載までには至らず、その費用が残った。次年度は論文掲載のための費用として使用する予定である。
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