ヒトは生体外のストレスを感知して様々な反応をする。例えば、ダイオキシン類やβ-ナフトフラボン(βNF)などの曝露を受けた細胞では、核内受容体であるAhR(aryl hydrocarbon receptor)を介してシトクロムP450(CYP)1代謝酵素の発現が誘導され、解毒反応が促進される。我々は、βNF曝露によるCYP1B1遺伝子発現量の誘導が、5-aza-2’-deoxycytidine(DAC)の前処理による脱メチル化でさらに増強されることを明らかにしてきた。AhRが転写因子として結合するCYP1B1遺伝子の各XRE(xenobiotic responsive element)はCACGCで構成され、DNAメチル化の標的となるCpG配列が含まれる。本研究では、AhRがXRE配列のメチル化状態により標的遺伝子の発現応答性を制御する「エピゲノムセンサー」として役割に着目し、AhRの結合応答性を評価する新しい手法の開発を試みた。 ヒト肝臓がんHepG2細胞では、βNFによる発現誘導がDACの処理で増強され、これはXRE2/XRE3配列の高メチル化状態で説明可能であった。βNFを曝露した細胞を対象に抗AhR抗体を用いたクロマチン免疫沈降法によりXRE複合体を回収し、DNAメチル化解析を行った。その結果、沈降前では部分メチル化状態であったXRE2/XRE3配列が、沈降後のAhRと結合した配列ではメチル化が認められなかった。同様の結果は、クローニング後の解析においても確認された。これよりAhRは非メチル化状態の標的配列と選択的に結合することが明らかになり、AhRを介した応答性が標的配列のメチル化状態により制御される可能性が示唆された。 本研究で用いた新しい手法では、従来のレポーターアッセイやゲルシフトアッセイとは異なり、リガンド曝露により活性化されたAhRとクロマチンとの結合を自然な状態で評価することが最大の特長である。本研究の成果は、他の転写因子が関わるストレス応答においても、DNAメチル化による応答性制御の評価に貢献することが期待できる。
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