研究課題/領域番号 |
19K07201
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
川野 雅章 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (30447528)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Polyomavirus / Simian virus 40 / Virus-like particle / Antigen / Incorporation / OVA / Cellular immune response / Humoral immune response |
研究実績の概要 |
Simian virus 40 (SV40) は、サルを宿主とするポリオーマウイルス科に属するウイルスである。SV40のウイルス粒子は、直径50 nm程度の正二十面体の構造で、SV40 VP1と呼ばれる1種類のタンパク質のみで形成されている。VP1タンパク質のみで粒子を形成するために、まず5つのVP1タンパク質がVP1五量体と呼ばれるサブユニットを形成し、72個のVP1五量体が自己集合化することで正二十面体構造を形成する。SV40粒子の内部にはVP1五量体に裏打ちする形でVP2またはVP3が合計72個含まれ、その中心には5,243塩基対の2本鎖環状DNAのSV40ゲノムが細胞性のヒストンで凝縮されたミニクロモソームと呼ばれる形で内包されている。VP1は宿主因子の助けを借りずに自己集合化する能力を有しているため、組換えタンパク質としてバキュロウイルス発現系を用いて昆虫細胞でSV40 VP1を発現させると、中身が中空のウイルス様粒子 (Virus-like particle, VLP) を調製することができる。我々は、これまでにSV40 VLPを大量に調製する系を確立し、VLPから高度に精製されたVP1五量体を調製し、試験菅内でVLPに再集合化させる技術、DNA、RNA、および、外来タンパク質をSV40 VLPの内部に内包する技術を確立してきた。この技術をワクチン開発に応用し、外来抗原を内包したSV40 VLPのみを免疫することにより、外来抗原に対し、Alumアジュバントと同等の抗体産生の誘導、および、既存の細胞性免疫アジュバントと同等かそれ以上の細胞性免疫を誘導する一方で、炎症性サイトカインの分泌を惹起しないことを明らかにした。このSV40 VLPに特有の免疫誘導機構を明らかにするために、本年度はSV40 VLPが細胞性免疫を惹起する分子機構の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、計画通り、simian virus 40 (SV40) virus-like particle (VLP) が細胞性免疫を惹起する分子機構の解析を行った。そのために、単離したマウスCD8陽性 T 細胞、natural killer (NK) 細胞、または、腹腔マクロファージにSV40 VLPを作用させて培養し、1日後の培養上清を回収した。そして、回収した培養上清に含まれるInterferon (IFN)-γ、Interleukin (IL)-2、およびGranzyme B (GrB) の濃度をenzyme-linked immunosorbent assay法で測定した。その結果、SV40 VLPを作用させた培養上清からはIFN-γ、IL-2、およびGrBは検出されなかった。その一方で、SV40 VLPを作用させたCD8陽性 T 細胞、および、NK細胞から、免疫活性化マーカーの上昇と特定のケモカインの産生が検出された。このことから、SV40 VLPは分子レベルでも先天性免疫応答を惹起することなく、細胞性免疫応答を惹起することが確認できた。また、昨年度は、SV40 VLPを作用させたB細胞をマウスに移植することで、SV40 VLPに対する抗体産生を誘導する系の構築を行い、抗アゴニスト抗体で特定のCDマーカーを惹起したB細胞にSV40 VLPを作用させることでSV40 VLPに対する抗体産生が誘導されることを見出した。本年度はさらに、SV40 VLPを作用させたB細胞をマウスに移植することで、SV40 VLPに対する細胞性免疫応答を誘導する系の構築を行った。よって、本研究計画年度のSV40 VLPによる抗体産生誘導および細胞性免疫活性化機構の解析は予定通り遂行することができたため、現在までの進捗状況としては、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、予定通りSV40 VLPによる細胞性免疫活性化機構の解析として、SV40 VLPのがんワクチンとしての効能を解析する。そのために、chicken ovalbumin (OVA) をマーカーとして発現するがん細胞を同系のマウス移植することで担がんマウスを作成する。また、OVAを内包したSV40 VLP (OVA/VLP) を作製するために、VP1五量体に裏打ちする形で結合するVP2のカルボキシル末端にOVAを融合したタンパク質を発現する組換えバキュロウイルスを調製し、昆虫細胞にSV40 VP1を発現する組換えバキュロウイルスと共に感染させることで、VP2を介してOVAが内包されたSV40 VLPを調製する。この担がんマウスにOVA/VLPを投与することで、OVAを発現している細胞に対して獲得免疫としての細胞性免疫が惹起され、マウス体内でのOVA発現がん細胞の増殖を抑制または駆逐できる、というSV40 VLPのがんワクチンとしての効能が明らかになるものと期待される。この効果を確認するため、OVAを発現するがん細胞を移植したマウスにOVA/VLPを投与して、体内でのOVA発現がん細胞の増殖の推移を解析する。また、外来抗原を内包したSV40 VLPのみを免疫することにより、外来抗原に対し、抗体産生の誘導、および、細胞性免疫を誘導する一方で、炎症性サイトカインの分泌を惹起しないという特徴は、SV40 VLPが免疫細胞の宿主因子と相互作用することによって誘因されるものと考えられる。その分子機構を解明するためには、SV40 VLPと相互作用する宿主因子の探索も重要である。この探索のために、免疫沈降法、タンパク質マイクロアレイ、および、酵母ツーハイブリッド法を駆使してSV40 VLPと相互作用する新規細胞性結合因子を同定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画年度においては、組換えバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させることによりsimian virus 40 (SV40) virus-like particle (VLP) を調製した。Magnetic-activated cell-sortingを用いて単離したマウスCD8陽性 T 細胞、natural killer (NK) 細胞、または、腹腔マクロファージに調製したSV40 VLPを作用させて培養し、1日後の培養上清を回収した。そして、この培養上清に含まれるInterferon-γ、Interleukin-2、Granzyme B、および種々のケモカインの産生量をenzyme-linked immunosorbent assay法で測定した。また、SV40 VLPを作用させたCD8陽性 T 細胞、NK細胞、および、腹腔マクロファージを免疫活性化マーカーに対する蛍光抗体で染色し、フローサイトメトリーによる解析を行った。また、SV40 VLPを作用させたB細胞をマウスに移植し、SV40 VLPに対する細胞性免疫応答を誘導する系の構築を行った。これらの解析において、当初予定したよりも少ない実験回数でデータを取得できたため、次年度使用額が生じた。使用計画としては、今後の推進方策におけるSV40 VLPと相互作用する宿主因子の探索のための試薬代として使用する予定である。
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