前年度の検討において、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の起因薬剤として知られているタモキシフェンを曝露したヒト肝由来細胞株にヘム分解酵素であるヘムオキシゲナーゼ(HO-1)誘導剤であるheminを共処理することでタモキシフェンの細胞毒性が抑制されることが明らかとなった。そこで本年度は、heminによるタモキシフェンの細胞毒性への防御効果についてそのメカニズムの検討を行った。heminの共処理によりタモキシフェンの細胞毒性は低減される一方で、ヘムの前駆体であるアミノレブリン酸で共処理した場合には毒性の低減効果が観察されなかった。また、アミノレブリン酸処理後に生成されるヘム生合成の中間体であるポルフィリン量を測定したところ、タモキシフェンの存在下ではヘム生合成経路の中間体であるウロポルフィリンとプロトポルフィリンⅨの細胞外への漏出量が顕著に増加しており、さらにHO-1のタンパク質発現を誘導しないことが明らかになった。これらのことは、タモキシフェンによりヘム生合成経路が障害されている可能性を示唆している。また、タモキシフェンの細胞毒性に対する防御効果はHO-1のヘム分解活性阻害剤を処理した場合でも観察され、毒性抑制効果の程度はHO-1のタンパク質発現量と相関していた。さらに、signal transducer and activator of transcription 3(STAT3)阻害剤で処理することでheminによるタモキシフェン細胞毒性に対する抑制効果が低減することが明らかになった。これらのことから、HO-1が従来考えられているヘムの分解産物を介した作用とは異なる機序でタモキシフェンの細胞毒性に対して保護的に機能していることが示唆された。
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