研究課題
フラビン含有酸素添加酵素(FMO)は化学物質、食品由来成分および幅広い医薬品などのN-およびS-酸化反応を触媒する。ヒトFMOの分子種は成人肝に多く発現するFMO3と胎児肝または成人腎に発現するFMO1が存在する。近年、FMO3 が代謝消失にかかわる医薬品が報告および上市されている。これら分子種の発現には年齢差、臓器差さらに動物種差が存在する。そこで本研究では、ヒトおよび動物の生体内薬物酸化におけるFMO3 の寄与を検討するため、ヒト肝移植および非移植マウスにイトプリドを経口およびトリメチルアミンd9体を静脈投与し、血中濃度を測定し影響を検討した。ヒト肝移植マウスにおけるイトプリドおよびトリメチルアミンd9 体のN-酸化体血中動態特性から、コントロールマウスに比較してヒト肝移植マウスは高いN-酸化体生成が認められた。ヒト肝移植マウスにおいて、血中イトプリドN-酸化体濃度はトリメチルアミンd9体投与によって一部影響が認められ、生体内におけるFMO基質による相互作用の可能性が推察された。一方、ヒトFMO3の表現型として、その機能低下に伴いトリメチルアミン尿症を引き起こす。近年、東北メディカル・メガバンク機構により日本人約 3,500 人の全ゲノム解析が行われ、その遺伝子情報の活用が注目されている。そこで、表現型解析および遺伝子情報より FMO3 遺伝子変異を探索し、見出した新規変異が酵素機能に及ぼす影響を調べた。データベース探索から、アミノ酸置換を伴う 8 種の新規 FMO3 遺伝子変異を見出した。これらのうち、一部の変異型組換え酵素の TMA N-酸化酵素活性は、野生型と比較して著しく低値を示した。これらの新規 FMO3 遺伝子変異は、既報の同酵素遺伝子変異に加えて、日本人トリメチルアミン尿症の一因となることが推察された。
2: おおむね順調に進展している
ヒトの薬物体内動態のよりよい予測を行うために有用な動物モデルを検討するため、ヒト肝細胞移植マウスを用いてin vivo薬物血中濃度測定を行った。さらに、他の実験動物へのFMO基質の投与実験および解析も準備が整った。
ヒトの薬物体内動態を予測する上で有用な動物モデルとして、さらにサルにおけるFMO基質の薬物血中濃度測定を行う。さらに、in vitro薬物代謝酵素活性の活用を行うために、各種実験動物の肝および腎ミクロゾームのFMO基質代謝酵素活性を測定していく。薬物体内動態の解析を行うため、生理学的薬物動態モデルの活用を行う。
米国で開催が予定されていた国際毒性学会が感染症拡大の影響で中止となった。研究成果を発表するのに来年度に開催される国際学会での発表がふさわしいと考えたため次年度使用額が生じた。次年度における使用計画として、海外の国際学会での成果発表に使用する。
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Drug Metab. Pharmacokinet.
巻: 34 ページ: 334-339
10.1016/j.dmpk.2019.06.001.