研究実績の概要 |
重症筋無力症(MG)は,アセチルコリンレセプター(AChR)に対する自己抗体が神経筋伝達を遮断する自己免疫疾患であり,特定疾患の一つでもある. MGの治療に用いられる副腎皮質ステロイド (GC)やカルシニューリン阻害剤によるエピゲノム制御能が,制御性T(Treg)細胞を誘導する.本研究では MG患者を対象とし,末梢血単核細胞を用いて,Treg細胞に関連する遺伝子変異およびT細胞におけるエピゲノム解析を行い,有効な治療薬を選択するプレシジョンメディスンの実現を目指すことを目的とした. MGにおいてはTreg細胞の抑制機能に関与するインターロイキン(IL)-10遺伝子変異の発現頻度が高いという報告がある.初年度は,CD4+T細胞におけるIL-10産生能とGC減量率との関連が示唆された(p=0.036).血漿中のIL-6は,抗AChR抗体価と有意な正の相関を示し(p=0.043),自己抗体産生能との関連が示唆された.次年度には, Treg特異的脱メチル化領域におけるFoxp3遺伝子のメチル化レベルを検討し,MG患者では健常者に比べてメチル化レベルが上昇している(p=0.021)ことが明らかとなった.最終年度は,骨格筋細胞の3次元培養を行い,in vitroにおける神経筋接合部モデルの作成を試みた.正常細胞による長期培養系を確立する際には,成長因子等の添加が必須である.しかしながらAChR発現に影響を及ぼすことが明らかとなり,本研究では抗AChR抗体との結合能の検証には至らなかった.レクチンを用いて抗AChR抗体における糖鎖異常および補体活性を検証した結果,Foxp3遺伝子のメチルレベルとの関連は認められなかった.一方,抗AChR抗体における糖鎖異常はCD4+T細胞におけるIL-10産生に影響を及ぼすことが明らかとなり(p=0.044),治療応答性に関与する可能性が示唆された.
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