昨年度は拘束ストレスを与えたラット脳における薬物代謝酵素の発現変動を明らかにしたが、今年度は拘束ストレスが肝臓や小腸での薬物代謝酵素(シトクロムP450 やUDP-グルクロン酸転移酵素)の発現に及ぼす影響について解析した。なお、ブリストルスケールに基づき便の性状を判定したところ、拘束ストレスにより軟便化が認められたため、ストレスは負荷されたと考えられた。肝においては、拘束ストレスによりCYP3A1/23がmRNAレベルで1.9倍に増加したが、CYP1A2、CYP2C11、CYP2D1などその他のP450分子種では大きな変動は認められなかった。また、UGTに関しては、UGT1A1、UGT1A6、UGT2B1の3分子種について検討したが、いずれも変動は認められなかった。従って、本検討で負荷したストレスによる影響は薬物代謝酵素により異なると考えられる。また、小腸や腎臓ではいずれの薬物代謝酵素においても、発現変動は認められなかった。本検討では拘束ストレスは7日間実施したが、本法によるストレス負荷では、薬物代謝酵素の発現にほぼ影響を与えないと考えられる。次に、昨年度に脳で発現変動が認められた薬物代謝酵素の発現変動メカニズムを解明すべく、転写調節に関わる核内受容体を中心に検討を行った。薬物代謝酵素は多環芳香族炭化水素受容体(AhR)やNuclear factor erythroid 2-related factor 2(Nrf-2)、Constitutive androstane receptor(CAR)などによって発現が調節されている。しかし、AhR、CAR、Nrf2タンパク質の脳での核内移行性の変動は認められなかった。従って、ストレスによる薬物代謝酵素の発現変動には、核内受容体以外の転写調節因子が関わっていると考えられた。
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