研究課題/領域番号 |
19K07215
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小野 俊介 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (40345591)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 新薬グローバル開発 / 新薬開発戦略 / 有効性・安全性 / 異質性 / 臨床エビデンス / 副作用 |
研究実績の概要 |
本研究の目的(新薬開発のグローバル化とローカルレベルでの有効性・安全性の関係の探索)達成に向けて、2021年度は次のとおりの研究成果を得た。 第一に、2020年度までに実施したシステマティックレビューの結果を踏まえ、抗がん剤のリスクベネフィットプロファイルの選好調査を日本人肺がん患者(200名)を対象に実施した。分析の結果、日本人肺がん患者が最も大きな重みづけをした特性は「全生存期間」で、次いで「有害事象」、「無増悪生存期間」、「投与頻度と投与期間」の順であった。仮想的な薬剤に対する選好は、性別や年齢などの人口統計学的特性と、がんの種類や病期ステージなどの疾患背景の両方の影響、また、抗がん剤治療の経験や有害事象の経験の影響を受けている可能性が示された。日本人肺がん患者に対する同種の選好調査はこれまで実施されておらず、日本人患者の好みが初めて明らかにされ、先行する欧米人の研究結果との相違、及び相違が生じる理由をさらに分析するための重要なデータを収集できた。 第二に、国際共同治験に見られる有害事象発現の国内外差(欧米人と日本人の違い)とその要因の探索を実施した。治験薬の領域などを調整したメタ回帰分析の結果、全体に上咽頭炎、便秘、発熱、咳嗽などの副作用発現に国内外差が見られたほか、抗悪性腫瘍薬と免疫調整薬の試験で特徴的な国内外差が現れたことが分かった。薬剤の特徴(剤形等)、試験デザイン要素(盲検化等)が国内外差の発現に影響している可能性も示唆されたため、本年度(2022年度)以降さらに緻密に試験背景を調整した分析が必要であることも分かった。 これらに加えて、欧米と日本の臨床開発環境の相違が治験実施期間とどのように関係しているかの分析、日本での市販後のリスクマネジメント計画と臨床試験成績(グローバル開発様態を含む)の関係を探索する研究に着手し、学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始から2021年度までの研究により、現在の医薬品のグローバル開発の特徴(試験デザインと成功率の関係、薬剤の特徴との関係など)、米国と日本の薬剤治療における健康アウトカム(有効率、副作用発現など)の差異、欧米と日本の患者のリスクベネフィット選好の特徴についての分析が順に行われ、医薬品グローバル開発時代における日本(人)の置かれている環境・条件が明らかになった。 研究初年度(2019年度)は、新薬開発後期の臨床データパッケージ構築の経路とローカル(日本)での重篤な副作用発現の関係について分析を実施し、従来から想定されていたパブリックヘルス上の懸念(ローカル(日本)エビデンス不足が当該地域での安全性に悪影響を与える可能性)を支持する結果を得た。研究初年度から2年度(2020年度)にかけて実施した米国FAERS(副作用報告データベース)の分析により、副作用の自発報告が医療環境・報告者の動機によって大きく影響を受けていること、すなわち欧米と日本の副作用報告の結果を単に報告数に基づき比較してはいけないことを明らかにした。新薬開発者である製薬企業の行動に関しては、抗がん剤開発(第3相)の観察から、企業が固有の強みを踏まえたプロジェクト選択・領域参入を行っていることを示した。さらに研究3年度(2021年度)は、日本人肺がん患者を対象に抗がん剤の作用プロファイルに対する好みを調査した。これにより欧米人の調査結果との比較が初めて可能になり、今後の新薬が満たすべきローカルニーズの要素を検討する重要な手がかりを得た。 以上の結果から、現下の製薬企業のグローバル戦略でどのような要素が重視されているか、そこにローカル(地域)がいかに組み込まれているか、ローカルの健康アウトカムとの関係をどのようなモデルで検討すべきかを議論する分析結果を得ることができた。以上のとおり研究はおおむね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの成果を踏まえ、2022年度以降は次の点を検討する。 第一に、前年度までにも一部検討を進めてきた、新薬開発における被験者集団及びエンドポイントの選択、並びにバイオマーカーの活用状況について分析を行う。有効性(効果量)とバイオマーカーを用いた患者タイプ選択の関係を探る。また早期開発段階(第1相)でのバイオマーカーの活用が有効性探索の効率に役立っているかの検討も継続する。かかる分析はグローバル製薬企業の開発行動とその健康上の帰結の関係を構成する要素の探索の一つとなる。 第二に、世界各国の規制当局の承認審査における判断基準、特に薬剤の有効性の「合否」の閾値がどこにあり、どのような背景が品目タイプによる閾値のばらつきに関係するかを探索する。世界最大の市場である米国の当局FDAの抗がん剤の承認審査を分析対象とし、がん種・薬剤背景・競合状況などを考慮した分析を実施する。迅速承認などの米国独自制度の分析も併せ行い、FDAの意思決定の特徴を探索することを目的とする。また、実際にローカル(日本)の規制当局に提出されたデータパッケージの中に欧米(人)の試験及び国際共同試験がいかに位置づけられているか、それらが実施され、提出される背景・理由は何かを検討する探索的分析も前年度に引き続き継続する。これらの分析は、グローバルとローカルの関係を、製薬企業と患者(被験者)の視点に加えて、各国の市場を制御しうる規制当局の視点・行動様式(及びその違い)から分析するための材料を与えるはずである。 第三に、これまでの研究で注目してきた抗がん剤領域に加えて、最新の治療モード(遺伝子治療、細胞治療など)を反映した薬剤領域のグローバル開発・規制の動向と、ローカル(日本)のそれを比較した分析を実施する。 本年度以降の研究の実施についても、過去3年間に蓄積した研究成果(データベース)を活用したものとなる。
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