研究課題/領域番号 |
19K07220
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
合葉 哲也 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (00231754)
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研究分担者 |
北村 佳久 岡山大学, 大学病院, 准教授 (40423339)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 投与設計 / 個別化医療 / PKPD / 腎不全 / GABA / 中枢抑制作用 |
研究実績の概要 |
薬物療法の基本は、期待どおりの治療効果が得られるように薬物の血中濃度を適切に管理することである。こうした薬物血中濃度の管理を行う背景には、薬物濃度に変化がない場合、薬物の治療効果すなわち薬理効果は変化しないとする基本認識が存在する。しかしこの認識は必ずしも正しいものではない。我々が既に指摘しているように、病態時には、薬物の治療標的の薬物感受性が変動する。よって薬物療法の個別化至適化を行い医薬品を適切に用いる場合には、薬物血中濃度の管理に加え、薬物作用部位の感受性変化を考慮することが必要である。本助成研究において、我々は、薬物の脳室内直接投与法を用い、薬物の脳内移行に影響する薬物動態学的な変動因子を排除して、中枢神経系の薬物感受性を適切に評価可能なインビボ動物実験系を構築した。そしてこれを用いて代表的な中枢抑制薬フェノバルビタールに対する中枢神経系の感受性評価を行ったところ、腎不全ラットの場合に、対照群よりも少ない投与量で中枢抑制作用が発現し、腎不全時に中枢神経系の薬物感受性が亢進することが示された。次いで、こうした腎不全時の感受性亢進機構に焦点をあてて検討を行ったところ、フェノバルビタールの直接の標的部位であるGABA受容体については、その大脳皮質発現量の変化が認められなかったが、その一方で、GABA受容体とともに神経細胞内のクロライドイオン濃度を調整する電解質輸送担体のうち、特に神経細胞においてクロライドイオンを排出方向に輸送する電解質輸送担体KCC2に発現量低下が認められた。この知見は、腎不全時に生じるフェノバルビタールに対する中枢神経系の感受性亢進に、神経細胞におけるクロライドイオンの調節機構の変調が関与していることを示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
組織の薬物に対する感受性を評価する実験系として、解析対象である中枢作用薬を脳室内に直接投与して薬理効果を評価するインビボ動物実験系を確立した。薬物感受性の変動機構の解析には、動物個体を用いる評価系が必要であるが、これに加え、薬物の標的部位への移行過程と標的部位での効果発現過程を分離して評価することが、本助成研究の円滑実施に不可欠であった。研究計画初年度においては、こうした動物個体での薬理効果を適切に評価できる評価系を迅速に構築することができ、くわえて、腎不全ラットにおける中枢抑制薬の感受性評価にこうした動物実験系を用いることで、脳中枢神経系における薬物感受性の亢進を再現性良く示すことができた。構築した評価系を用いて腎不全時の感受性の亢進機構を検討した結果、薬物の標的部位であるGABA受容体ではなく、神経細胞の電解質濃度の調節機構に変化が生じていることを示唆する結果が示された。こうした感受性亢進メカニズムを解明するための糸口となりうる知見に加え、研究計画初年度には治療効果におけるもう一つの変動要因である薬物血中濃度推移についても、その主たる原因である薬物代謝酵素の活性変動の機構解明に繋がる新たな知見も見出された。代謝活性の変動についてはこれまでは主に代謝酵素遺伝子の発現調節に焦点をあてた検討が行われてきた。我々はこれに加え、今回、病態時には代謝酵素タンパクの分解機構が活性化することを強く示唆する知見を得た。分解機構の活性化によっても薬物代謝活性の低下が生じ得ることから、この知見は病態時に薬物血中濃度推移の変動因子解明の新しい方向性を示すものである。こうした研究の現状を勘案し、研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
腎不全の影響が、遠隔的に脳中枢神経系に及ぶメカニズムが不明である。これにかかる最も有力な仮説は腎不全に伴う炎症性因子が血流によって中枢神経系に運ばれて影響が伝播するとするものであるが、脳中枢神経系は脳血液関門によって全身循環系から隔離されていることから、炎症性因子の直接作用は考えにくい。そこで研究計画次年度は、炎症病態モデル動物における中枢神経系の感受性変動を検討するとともに、腎不全病態における感受性変動機構についても電解質輸送担体KCC2の発現変動機構に焦点をあてて解明を進める。また、感受性変動によって中枢抑制機能が亢進するという現象は、興奮性疾患である多動性障害やてんかんの新規治療手法として応用可能であることから、こうした観点に沿った治療薬の開発可能性についても検討を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、年度末に研究成果公表の目的で参加を予定していた学会が開催中止となったことから、参加費および交通費が未執行となった。これについては、次年度当初の研究実施計画を前倒しで行い、実験に必要な試薬や消耗品の購入を進めることで、未執行額相当分を早期に相殺する予定である。
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