研究課題
本研究課題では、定量的な検討と各結果の統合が行われてこなかった問題点に着目し、抗菌薬等の感染患者での生理学的・臓器別薬物動態(PK)、病態時での宿主因子の薬力学(PD)、病原体の薬剤耐性機構を定量的に解明したうえで、三者の知見を統合して解析評価するアプローチにより、とりわけ耐性菌の治療・発現防止のための抗菌薬療法を最適化することを目的とする。特に臨床上問題となりやすい高齢患者や特殊病態(重症・臓器障害等)患者での最適な抗菌薬選択・投与法アルゴリズムの確立を目指して、令和2年度には以下のとおり実施した。各種の臨床検体の採取については、研究協力施設において、特に高齢患者や特殊病態時等を対象として、血液に加えて腹水、腹膜、脂肪織、前立腺組織などの組織体液検体を採取した。次に各種薬物の組織体液中・血中濃度測定については、各種の抗菌薬・抗ウイルス薬の薬物濃度測定系を確立したうえで、臨床検体に適した前処理方法や定量方法への修正・整備を行った。そして、薬剤耐性菌を含む臨床分離株に対し、抗菌薬(配合製剤を含む)のMICを収集し、MIC変化量データとして得た。また、様々な種類の細菌データを得た。患者の病態や抗菌薬療法に関連するデータおよび有害事象等の安全性データも収集できた。各PKデータの生理学的臓器別PKモデルによる母集団解析では、組織体液中・血中濃度の同時あてはめ解析により、適切な生理学的な標的臓器モデルを構築した。続いて、各種の細菌データの機構モデルの組込に基づく耐性菌治療効果・発現防止のシミュレーション予測では、薬物ごとの生理学的臓器別PK母集団モデルへ機構に基づいて、細菌データを組み込んで、感染臓器での耐性菌治療効果・発現防止の確率を予測することができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題において現在までに、感染患者での生理学的臓器別PK、病態時での宿主因子PD、病原体の薬剤耐性に関する情報を収集すること、データを定量的に解析してモデリング&シミュレーション手法により、三者の相互関連性を説明し表現する関係式を構築することに、下記のとおり取り組んだ。各種の臨床検体の採取については、研究協力施設において、特に高齢患者や特殊病態時等を対象として、血液に加えて腹水、腹膜、脂肪織、前立腺組織などの組織体液検体を採取した。次に各種薬物の組織体液中・血中濃度測定については、各種の抗菌薬・抗ウイルス薬の薬物濃度測定系を確立したうえで、臨床検体に適した前処理方法や定量方法への修正・整備を行った。そして、薬剤耐性菌を含む臨床分離株に対し、抗菌薬(配合製剤を含む)のMICを収集し、MIC変化量データとして得た。また、様々な種類の細菌データを得た。患者の病態や抗菌薬療法に関連するデータおよび有害事象等の安全性データも収集できた。各PKデータの生理学的臓器別PKモデルによる母集団解析では、組織体液中・血中濃度の同時あてはめ解析により、適切な生理学的な標的臓器モデルを構築した。続いて、各種の細菌データの機構モデルの組込に基づく耐性菌治療効果・発現防止のシミュレーション予測では、薬物ごとの生理学的臓器別PK母集団モデルへ機構に基づいて、細菌データを組み込んで、感染臓器での耐性菌治療効果・発現防止の確率を予測することができた。以上のとおり、おおむね順調に進展している。
本研究課題において今後は、抗菌薬療法の有効性に関連する耐性菌比率、細菌量、白血球・リンパ球・好中球、体温、炎症マーカー等の臨床データをさらに収集し、末梢血単核細胞の感受性分析で免疫機能の計測も行う計画である。そして、予測値と実測値の比較によるモデルの修正と治療最適関係式の構築を行い、各薬の感染臓器での耐性菌治療効果・発現防止の予測に対し、実測臨床データを用いたベイズ推定で、感染治療モデルとパラメータ値を修正する計画である。そのうえで本研究課題の最終段階として、治療最適関係式を患者へプロスペクティブに検証・修正して抗菌薬療法アルゴリズムを確立することを目指す。具体的には、統合的解析評価による耐性菌の治療・発現防止へ向けた関係式に基づいて、薬物、細菌、宿主状態の特性因子に応じた個別最適な抗菌薬療法を設計するソフトウェア・アプリケーションを開発する計画である。そして、新規に構築されたツールを感染患者へプロスペクティブに臨床適用する予定である。適用結果のフィードバックにより修正を図ることで、耐性菌の治療と発現防止に最適な抗菌薬選択・投与法アルゴリズムを確立する計画である。以上のとおり、今後の研究の推進する方策である。
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