研究課題/領域番号 |
19K07236
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
上田 久美子 神戸薬科大学, 薬学部, 講師 (10309437)
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研究分担者 |
大河原 賢一 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (30291470)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん / 代謝リプログラミング / ヌクレオシド |
研究実績の概要 |
ヒト大腸がん細胞株HCT116において、解糖系の亢進、すなわちグルコース取り込み量と乳酸産生量の増大が、促進拡散系核酸トランスポーターequilibrative nucleoside transporter 1 (ENT1)の阻害やENT1ノックダウンにより認められた。これらは、一部の解糖系酵素の発現亢進によるものと考えられた。しかしながら、透析FBS含有培地使用時には解糖系の亢進は認められず、解糖系酵素の発現量亢進も認められなかった。すなわち、ENT1阻害時、ノックダウン時の代謝リプログラミングは、培地中の低分子化合物の有無によるものではないことが示唆された。 一方、遊走能・浸潤能は、ENT1阻害やENT1ノックダウン、透析FBS含有培地使用のいずれにおいても亢進することが示された。 以上より、HCT116においては、代謝リプログラミングと遊走能・浸潤能の亢進が異なる機序で生じている可能性が示唆された。すなわち、遊走能・浸潤能については細胞内ヌクレオシド、ヌクレオチド量の増減で説明できる可能性があるものの、代謝リプログラミングについては、従来予想していた細胞内ヌクレオシド、ヌクレオチド量の増減によるものだけでは説明がつかないことが明らかとなった。 さらに、他の大腸がん細胞の中には、HCT116と比較してENT1阻害やノックダウンによる解糖系の亢進が認められないものが存在することが示唆された。すなわち、細胞によってENT1機能抑制が代謝リプログラミングに及ぼす影響が異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究にて明らかにしようとした2つのステップのうち、①培地中ヌクレオシドががんの代謝および増殖、生存性、浸潤・転移能などの性質に及ぼす影響、について、培地中ヌクレオシドが代謝と浸潤・転移能に及ぼす影響が異なる可能性を示唆する結果を得た。そこでまず、そのメカニズムを明らかにすることが重要と考え、検討しているところである。具体的には、培地中や細胞内ヌクレオシド、ヌクレオチド量の定量を試みている。HPLCでは測定が困難である可能性が生じてきたため、現在LC-MS/MSにて試みているが、機器の不具合等が生じたために測定の条件設定に時間がかかり、進捗が計画より若干遅れている。さらに、着目する点を、培地中ヌクレオシドからヌクレオシドに関係する受容体や細胞外でのヌクレオシド産生などにも広げ、さらなる検討を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
ENT1機能抑制によって引き起こされる代謝リプログラミングのメカニズム解明を試みるべく、in vitroでの検討を進める。例えば、また、ヌクレオシドがシグナルとなる膜受容体やヌクレオシドが影響を与える可能性のあるシグナル伝達経路等について、アゴニスト、アンタゴニストなどを用いた検討を行い、その役割を明らかにする。また、培地中や細胞内ヌクレオシド、ヌクレオチド量のENT1機能抑制時における増減を、LC-MS/MSを用いて検討する。さらに、細胞外でヌクレオシド産生に関与する酵素が果たす役割についても明らかにする。遊走能・浸潤能についても、同様に検討する予定である。同時に、細胞増殖や生存性についての検討も進めていく予定である。これらを明らかにしたのち、抗がん薬の殺細胞効果に及ぼすENT1の影響について検討していく予定である。
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