本研究課題の目的はポリグルタミン病の原因であるポリグルタミン凝集体がベータシート構造を取るときの分子間の水素結合の状態を赤外顕微鏡を用いて把握することである。昨年度までの成果として、チューブ内で凝集させたポリグルタミンペプチドに対して中赤外光を照射することにより、波数3200-3500付近の水素結合の状態を反映する領域において、変化がみられた。つまり、光を照射したものは照射前のものに比べて、スペクトルが高波数側に広がっていた。中赤外光照射によりベータシート構造を持つものの割合が減少し、また分子間の水素結合はベータシート構造にとって必要であることから、上記結果はすることから、上記結果は水素結合の解離を反映するものとして矛盾ない結果であるといえる。上記培養細胞の結果を更に発展させるために、ポリグルタミン病モデルマウスの脳切片を用いてポリグルタミン凝集体の水素結合の状態を把握する必要がある。今年度は、このマウスの凝集体の性質を年齢ごとに解析した。小脳プルキンエ細胞特異的な発現を司るプロモーターを使い69個の連続したグルタミンだけを小脳プルキンエ細胞だけで持つようなトランスジェニックマウスでは、生後1か月以内の段階ではまだプルキンエ細胞は保たれていて、細胞内にフィブリル様のポリグルタミンが存在する。しかし、週令が進むとプルキンエ細胞内にフィブリル様のポリグルタミンが見られなくなり、同時にプルキンエ細胞および他の神経細胞が脱落し始める。また、プルキンエ細胞から脱出したポリグルタミン凝集体が小脳内の離れた部位に発見された。したがって、プルキンエ細胞内で作られたポリグルタミン凝集体が細胞外に脱出したと思われる。このマウスの小脳切片を用いて赤外顕微鏡解析を行う予定である。
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