本研究の目的は、羊膜類の軟骨頭蓋前半部の発生過程における未解決の問題を、比較発生学的手法を用いて解析することにより、哺乳類の頭蓋底の形態進化を明らかにすることである。前年度までに、in situハイブリダイゼーションを行い軟骨分子マーカーであるCol1a2がマウス胎齢13日胚の中脳褶曲下の間葉に一過的に発現していることから、爬虫類―鳥類では存在する耳前柱が哺乳類の進化の過程において消失することで脳が外側に拡大した可能性を検討した。哺乳類の下垂体直下に形成される軟骨(下垂体軟骨)は爬虫類―鳥類の極軟骨と相同と考えられるか否か、について、ニワトリを用いた複数個体の鰓弓の上顎突起の間葉細胞領域を蛍光色素DiIで標識した細胞の移動実験と、上顎突起の間葉細胞領域の焼却切除実験結果から、極軟骨は鰓弓の上顎要素を含む可能性を見出した。マウスでは上顎要素の神経堤細胞がDlx1で標識された遺伝子組み換えマウス(Dlx1-creERT2:R26R)のX-gal染色結果から、ニワトリの極軟骨に相当する部位にDlx1の発現が見られたが、個体により発現に差があることからニワトリと相同な部位の特定ができていなかった。 本年度はこれまでに得られた結果について追試や再試を行なったが、遺伝子組み換えマウス胎児標本は十分な数を手に入れることができずに十分な追試が行えていない。また、すでに切片化してある有袋類のオポッサム胎児標本のHE染色を行い、軟骨頭蓋前半部の形成過程について考察したが、標本が1個体のみであったため、明確な結論が得られなかった。今後は新たな標本を得てデータを追加し、原著論文としてまとめる予定である。
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