本研究では、歯の上皮間葉相互作用における細胞動態や歯上皮幹細胞維持・分化の制御機構の解明を目的とする。SIXファミリー転写因子遺伝子欠損マウスと野生型マウスとの表現型の比較により、1) 切歯形成を司るSIX1/Six4下流因子の同定、2) SIXファミリー転写因子による機能重複の検証した。 本年度は、これまでに行った Six1/Six4 二重変異ホモ胚および野生型胚の下顎原基切歯形成領域を用いたRNAseqのデータと組織学的解析から、下顎間葉領域において顕著に発現が減少するMasp1遺伝子に着目し、共同研究により遺伝子欠損マウスの表現型の解析を行った。Masp1遺伝子からは3つのアイソフォームが合成され、C末端にセリンプロテアーゼドメインを有するMASP1とMASP3は自然免疫補体系を活性化する因子であることが知られていた。さらにヒトMASP3のセリンプロテアーゼドメインにおける変異は、顔面頭蓋形成に異常が見られる3MC症候群の原因として知られていた。MASP3のみ欠損したMASP3特異的欠損マウスでは、ヘテロ変異個体に比べ、少なくともE18.5では頭蓋顔面骨の低形成を示し、また下顎の骨軟骨形成パターンも変化していた。以上の結果から、Six1/Six4は下顎原基においてMasp1遺伝子の発現制御に関与すること、MASP3特異的欠損マウスは、ヒト3MC症候群の同様の表現型を示すことを明らかにした。
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