研究課題/領域番号 |
19K07255
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
堀口 幸太郎 杏林大学, 保健学部, 講師 (10409477)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 下垂体前葉 / CD9 / 組織幹細胞 / 細胞表面抗原 / 第3脳室 / 上衣細胞 / Tanycytes |
研究実績の概要 |
成体の組織幹細胞は、多分化能を持ち、ニッチと呼ばれる周囲環境によって制御されながら、組織内における細胞供給源となる。内分泌器官である下垂体前葉では、PrimaryニッチとSecondaryニッチの2つが存在する。Primaryニッチの組織幹細胞がSecondaryニッチへ移動・増殖・分化し、ホルモン産生細胞を供給すると予想されるが、未だ実証されていない。申請者は、ラット下垂体前葉内組織幹細胞マーカーとして細胞表面抗原CD9を同定した。このCD9抗体を利用した抗体ビーズトラップ法により、種々の細胞群で構成される下垂体前葉組織から組織幹細胞の単離に成功している。本研究では、1)単離したCD9陽性幹細胞からケモカインの1つであるCX3CL1が発現することを明らかにした。また、細胞外マトリクスコート上に播種し、血清存在下で血管内皮細胞へと分化すること、分化過程においてCX3CL1発現が低下し、代わりにそのレセプターである血管内皮細胞マーカーであるCX3CR1発現が高まることを明らかにした。これは、ニッチ環境から外れた幹・前駆細胞の血管新生の開始を再現したと考えられる。これらの結果は学会にて発表し、論文掲載された。2)CD9ノックアウトマウスの下垂体前葉における組織学的観察を行い、下垂体前葉と中葉の腺下垂体がワイルドタイプに比べて小さいことが明らかとなった。これはホルモン産生細胞が少ないことに起因すると予想された。3)CD9発現に関して、脳へ着目すると、第3脳室周囲に存在するTanycytesがCD9を発現すること、CD9抗体を利用した抗体ビーズトラップ法によりTanycytesを単離し、神経細胞へと分化させることに成功した。これらの結果は学会にて発表し、論文掲載された。 現在ラット下垂体前葉から単離したCD9陽性細胞のホルモン産生細胞への分化誘導をin vitroの系で行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
組織幹細胞はある程度の多分化能を持ち、発生過程や細胞死、損傷組織の再生において、新しい細胞を供給する役割を持つと考えられている。組織幹細胞の状態はニッチと呼ばれる周囲環境によって制御され、ニッチは、組織幹細胞の静止状態と増殖・分化を調節する場である。下垂体前葉は、ホルモンの合成・分泌を行い、成長、生殖、代謝、行動など多くの生体機能の制御に関与している重要な内分泌器官である。5 種類のホルモン産生細胞、支持細胞である濾胞星状細胞、血管系の細胞、そしてこれらの供給源となる転写因子Sox2を発現するSOX2陽性細胞 (=組織幹細胞)から構成される。生体の生理状態に応じてホルモン産生細胞の割合は調節され、前葉細胞の供給源は、組織幹細胞からの増殖・分化であると想定されているものの、依然として未解明である。ホルモン産生細胞などの供給はPrimaryニッチの幹細胞が担っていると考えられ、そこから幹細胞を純化し、分化誘導する必要があるのではないか?と考え本研究を行っている。現在までに、Primaryニッチの幹細胞が細胞表面抗原CD9を発現し、抗体ビーズトラップ法により単離することに成功している。さらに本年度の研究からCD9とSOX2の両陽性細胞(CD9/SOX2陽性細胞)は血管網様構造を形成し、内皮細胞へと分化すること、そしてその分化にはケモカインCX3CL1とレセプターであるCX3CR1のシグナリングが関与することを明らかにした。現在、単離したCD9/SOX2陽性細胞からSphere形成を成功させ、ホルモン産生細胞への分化誘導を試みている。既に2報の投稿論文が掲載されており、研究業績から鑑みても当初の計画通りに進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続いた解析を行う。まず単離に成功したCD9/SOX2陽性細胞からのSphere形成を行い、Sphereのマトリゲル3次元培養から、様々な成長因子の投与、抑制を加えることで、ホルモン産生細胞、内皮細胞への分化を引き続き行っていく。またCD9の機能解析も同時に行う。現在、単離に成功したCD9/SOX2陽性細胞においてSiRNAによるCD9ノックダウンによる細胞機能の変化を解析しており、本年度中に明らかにできると考える。またCD9ノックアウトマウスは、すでに他の研究グループが作成し(Jin et al. Scientific Reports, 2018)、申請者らは下垂体組織に加え、血清の供与を受けている。このマウスは、下垂体の大きさ、重さ、さらに身長、体重がコントロールに比べて小さい。これは下垂体前葉ホルモン産生細胞の供給不全が疑われる。成長ホルモンやIGF-1の血清内濃度を測定し、下垂体前葉ホルモンの機能不全を明らかにする。 以上を明らかにすることで、本研究の問いである、下垂体前葉の幹細胞からのホルモン産生細胞などへの供給メカニズム、そして細胞表面抗原CD9の機能も明らかにできると考える。
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