研究実績の概要 |
組織幹細胞は、ある程度の多分化能を持ち、発生過程や損傷組織の再生において、新しい細胞を供給する役割を持つと考えられている。下垂体前葉は、「ラトケの遺残腔」周囲の中葉と前葉に面する一層の細胞層が「Marginal cell layer, マージナルセルレイヤー」と呼ばれ、組織幹細胞が存在し、下垂体前葉のPrimary ニッチとされている。そこから、実質層のSecondary ニッチへ移動したSOX2陽性細胞はホルモン産生細胞や血管内皮細胞へと分化する。以上をもとに、申請者はラットの下垂体前葉の組織幹細胞の同定と単離、分化誘導を行った。下垂体前葉の組織幹細胞であるSOX2陽性細胞が膜タンパク質である細胞表面抗原(CD)9を発現すること(CD9/SOX2陽性細胞=組織幹細胞)、CD9抗体を利用したビーズトラップ法によりPrimaryニッチのCD9/SOX2陽性細胞の純化に成功した。そして、PrimaryニッチからSecondaryニッチへのCD9/SOX2陽性細胞の移動メカニズムを明らかにし、ホルモン産生細胞(成長ホルモンGH、プロラクチンPRL、甲状腺刺激ホルモンTSH細胞という転写因子Pit1の発現から分化が始まる同じ系統の細胞)、及び血管内皮細胞へ分化することを明らかにした。さらに、血管内皮細胞への分化トリガーがケモカインCX3CL1であることを明らかにした。またCD9ノックアウトマウスの下垂体前葉を観察し、Primaryニッチの細胞が結合組織に置換され、下垂体前葉の細胞供給が滞ることで、下垂体前葉のサイズが小さくなり、プロラクチン産生細胞数が少なくなることを明らかにした。これらの結果はCD9/SOX2陽性細胞がラット下垂体前葉組織幹細胞であり、ニッチ環境から外れた組織幹細胞の移動とホルモン産生細胞供給、血管新生の開始を再現したと考えられる。
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